タカツテムの徒然雑記

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左手のための二重奏(8) 感想

実際に見えたわけでも言葉を交わしたわけでもないけど、シュウの『解釈』から灯を見たルカはやはり高レベルのピアニストだね。また、自身の『解釈』を打ち破って別の『解釈』を披露したシュウを評価できる点も彼女の強さを示唆している

……その割に灯の存在を感じ取って泣き叫ぶのはちょっと幼く感じなくもないけども(笑)

 

 

ルカがシュウを評価したように世間もシュウを評価し始める。そりゃ、不良が2年程度でピアノコンクールの全国へ登り詰めたら注目されるというもの

同様に学校での評価も変わり始めるけど、前巻での騒動で仲良くなった梅田等が変わらぬ距離感で接してくれたのは良かったね

シュウはピアニストとして未熟だけど、それと同じく普通の学生としても未熟だから

 

そうやって全てが上手く回っていたから忘れてしまっていた問題。シュウがそもそも不良になった理由

家族の繋がりというのはそう簡単に消せるものじゃないし、更生等によって解決できるものでもない

両者共に逃避の形で一旦は解消していても、遭遇してしまえば強い繋がりは復活する。それは新たな世界へ邁進するシュウには堪らないもの。以前と変わらぬ態度で接してくる父親なんかシュウは認められない。既に終わった関係として扱おうとする

 

でも、その程度の扱いで消えてくれるなら、親子なんて、過去の罪なんて軽いもの

シュウが認められなかった重さが御影をあのような目に遭わすなんて……

 

 

御影の負傷によって予定変更となったリサイタル、きっとシュウの内面は大嵐だろうに、それを表面に出す事なくプログラムを進められるのはピアニストの端くれなのだと感じさせる

でも、それはプログラムの最中に自分の内面と向き合っていないだけかもしれなくて

 

それを刺激するのが奥村勉ですか。再登場シーンは印象が変わり過ぎてて誰だか全く覚えてなかったよ。奥村がラノのリサイタルの件を持ち出した時にようやく彼が誰だったか思い出せたくらい

そして読み直して改めて印象の変わり具合に驚いてしまった

 

そんな彼が語るのは「選ばれた者」によって夢を諦めた「凡人」の恨み。そして紡ぐ『解釈』は「虚無」

セミファイナルで最高評価を得られる程の実力者でありながら絶望する彼を越える為にシュウは無理なレベルアップを迫られた形

本来は御影のリサイタルを成功させる事を最優先に考えれば良かったのに、直前の出来事がシュウの意識を変えてしまったね。つまりは、自分はピアニストなろうとしているとの志向

だからピアノを恨む奥村を許容できない

 

その対立に有るは破壊衝動。壊すという点に限ってはシュウの過去に幾らでも引き出しがある。父親に、母親に、クラスメイトに、そして周囲に何度も壊されてきた。だから右手を振り返した

それこそがシュウのピアノにおける根源的な『解釈』という事になってしまうのかな…

 

今回は奥村の『解釈』を破壊する点では役立った。でもそれは同時にシュウの夢も壊すもの

シュウが独りだったらそのまま「破壊」に落ちていくだけだったろう。これを灯の「笑顔」はどう覆すのだろうか…?