タカツテムの徒然雑記

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左手のための二重奏(9) 感想

シュウが己の過去から編み出した『壊す』解釈は聞く者を恐れさせるだけでなく己すら壊すもの
ここで彼が孤独であれば、自らが生み出す衝動に飲まれて終わってしまったかもしれないが、灯という存在が左手に宿ってくれていたお陰で立ち直れる展開は良いね
二人は左手と右手でピアノを弾いてきた。それがピアノ以外の面で最も活きたシーンで有るように思えるよ

だから、その意味がシュウにとって別の意味を持っているなんて考えもしなかったけど……
思い返してみれば、シュウが事故から戻ってきて最初に悩んだのは御影にどう償いすれば良いのかという点だった。その後、左手に灯が宿った為に彼女をピアノの世界に戻す事が彼の目標となった
でも、それって遣り方が違ったとしても償いである事に変わりないかもしれなくて

破壊の音はそれはそれで表現法として自分も周囲も受け容れてくれるかもしれない。けれど、灯を死なせてしまった事実を自分は受け容れられない
それこそがシュウが過去を否定したがる根源だったのか……

そこへ彰が勝負を仕掛けてくる流れは意外だったな
彼はシュウの影響でピアノの弾き方を大きく変えた人間。その上で駄目になること無く、本戦に食い込む程の実力へと昇華させた。なら、彼は過去の弾き方を否定しているのかと言うときっとそんな事はなくて
過去を踏まえた上で『今』を受け容れている彼の解釈は充分にシュウの心に届くわけだ

そうして意味合いを変えたシュウの償いは立派にピアノに向かい直させるものとなったようで
また、シュウにとって悔いしか存在しないあの夜の出来事に対して御影が感謝を伝える事が起こり得るなんて想像もしなかったなぁ…。過去は変わらないが、今を変えれば過去の捉え方は変わる。そのように感じられたよ


43話と44話は本作の集大成だね
あの日の出来事を音のない形として描き直しつつ、助かった形にする。それはきっとシュウが心の中で何度も望んだ光景で
でも、シュウが辿り着くべきは灯だけをピティカの舞台に立たせる事ではなかった筈で

灯とシュウが奏でるラフマニノフはシュウの人生が全て詰まっているし、灯という掛け替えのない存在もそこに居る
二人で奏でた奇跡

というか、てっきりあの流れで灯が成仏してしまうかとちょっとビクビクしながら読んでいたのだけど、そうはならなくて一安心…
シュウの行動が遠因となって命を落としてしまった灯。けれど、シュウの為だとか御影の為だとかではなく、もっと自分勝手な「生きたい」「ピアノが弾きたい」という願いの為に左手に在り続けるというのは如何にも彼女らしくて良いなぁ

ピティカの結果は描かれず。けれど、左手と右手で多くを叶えられるようになった二人なら今よりもっと様々な光景に出会える、そう思えるラストでしたよ