タカツテムの徒然雑記

主にアニメや漫画・ライトノベルの感想を投稿するブログとなっています。

凛子ちゃんとひもすがら (4)  感想

他者との繋がりをお金に頼ってきた本作。その最終巻で描かれたのは愛情ばかりだったような


19話で明かされた春乃の過去
凛子との生活を続けさせたあの大金が何処から来たのかと訝しんでいたけど、そういった由来が有りましたか

会った事もない孫と祖母。愛情を受けられなかった少年、派手好きな高齢女性
妙としか言いようのない組み合わせなのだけど、春乃は千代子の下にて愛情の一端に触れられたわけだ
それでも自分の全てを愛情で満たす事は叶わなかった。特に育ちの途中で千代子が亡くなったという点も大きいのだろうけど、最大の理由はその生活の中で彼が誰かに与える愛を知る事が出来なかったからなのかもしれない

だとしたら、凛子の為にお金を使っている今の生活は春乃にとって新たな愛と形容できるのだろうけど、そのタイミングで凛子の母親が帰ってきますか……

母親が帰って来るのがあの誕生日より前だったら凛子の反応は違っていたかもしれない。でもあの日に凛子を避けた母を凛子は許さず、縋る相手を春乃と定めてしまった。凛子と春乃の生活がどうしようもなく間違っていてそこには空虚しかなくても凛子は母を捨てて生きていくと決めてしまった

春乃が以前のように相手の願いを叶えるだけの虚無であれば、春乃は凛子の願いに応えたのだろうけど、今の春乃は凛子との生活によって愛を知りつつ有る人間。だから凛子の言葉に反して、そして自身を警戒する凛子母に対して二人を取り持とうとするわけだ


凛子の母が語る親から受けた毒の話
自分がそういったものしか向けられた経験しかないから、子に向ける愛に確信が持てない。温かな家庭や穏やかな母娘を知らないから、自分が居なくなった後の家から香る『普通』に怯える

凛子母はその境遇のせいも有るけど、とても弱い人間だった。以前のままでは凛子と二人暮らしなんて無理だったろうね
その意味で言えば、凛子母が回復し自分を見つめ直すまでの時間稼ぎとして春乃は機能したと言えるのかも。ヒモとして養われた春乃の存在は本当の幸せに凛子が手を伸ばすまでを繋ぐ紐となった
だから母から逃げようとする凛子に春乃が掛ける言葉は決まっている。次は一度は捨てた母親と凛子が向き合う番

親から毒を与えて育てられた凛子母が凛子に与えた孤独は毒となった。それを変える為に春乃が凛子に与えた空虚も毒だった。
そうして毒ばかり与えられた凛子がそれでも追い詰められた時に示したのは愛だと言えるんだろうなぁ…
愛を知らず毒に自身を浸した者達を前に凛子が示した諦めきれない愛への渇望。それに触れられたからこそ春乃は凛子の愛を手放す事が出来て、そして凛子も春乃の愛に拠って母と向き合おうと思えたのだろうな


第一話から描かれてきた未来の凛子の笑顔、それを向けている相手がスレミとは予想外だったなぁ。ストレートに母親でも良かったかもしれないけど、スミレがこの役に在る事で凛子は普通の家族だけでなく、普通の友達も得られたのだと判るね

諸々の描写で示されているように未来の凛子は充分幸せを手にしている。それでも春乃との再会を願う。それが俗な理由でも恩返しがしたいから等の理由ではなく、凛子も春乃の幸せを願えるようになったからというのは良いね

そうして互いの幸福を『普通』の日常の中で願い合えるようになった二人だからこそ、クライマックスにとても幸福な光景を描けたのかもしれないと思うと心が温かい気持ちで満たされてしまうね

本作を読み始めた頃は破滅的な凛子と春乃の生活がどうやって未来の温かな光景に繋がるのかと疑問だったのだけど、こうして完全無欠の幸福を見せられたら降参するしか無いね
読んで良かった、そう思える作品だったよ