タカツテムの徒然雑記

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ABC殺人事件 感想

あまりに華麗なトリックである為に、記憶を無くしてもう一度楽しみたいミステリーというのは世界中に幾らでも存在するだろうけど、その筆頭に名を連ねるかもしれないのが本作だね

ポアロに届く挑戦状、そしてABC順に次々殺される被害者。通常の殺人事件とは全く異なる論理で進展する事件はあまりにも刺激的。最後に待ち受けるどんでん返しも素晴らしいが為に、本作のネタバレもミステリ関連の先入観も全て無くしてもう一度騙されたい翻弄されたいと思ってしまう、そんな素晴らしい逸品。

何らかの法則によって殺人が行われるというのは、ミステリにおいて頻繁に見られるようになった手法ではあるけれど、それを最も効率的そして劇的に成し遂げたのが本作だと思っていたり

例えば本作が単純にABC順によって殺人がされるだけではここまで評価される事は無かったと思う。更なる要素としてABC鉄道案内やポアロへの挑戦状が存在する為にこの連続殺人は読者の関心を寄せるものになる
そして関心を持って読み進めれば進めるほど、犯人の術中に嵌っていく素晴らしい構造にもなっている。


殆どのクリスティ作品では犯人は主要な登場人物の中に居て、ある程度容疑者も絞られた描き方がされる
でも本作の場合、ABCという殺人犯が最初から存在するものの、それが誰なのかという点はまるで判らない
ある人物の登場によって、ABCの正体が朧気に見えるようになってくるがその人物はポアロと出会わないままに話は進む。だからか、連続殺人は止まらない

犯人の目星を付けられず手掛かりも得られない
そんな状態でポアロが探ろうとしたのは殺し方だね。彼はホームズのように事件現場に這いつくばるのではなく、被害者の殺され方から犯人の性格を見出そうとした。それに一致する者をイギリスの何処かから探し出そうとした

その推理方法がどうなるかは本作を最後まで読めば判るけれど、犯人のトリックだけでなくポアロの推理内容にも読者は翻弄される事になるのだから、本当に贅沢な作品だと思えるよ
それでいて、ポアロによって事件の真相が明かされた時には全てに納得できる点は素晴らしいの一言ですよ