ナポレオンについては世界史で学んだ要素等を部分的に把握しているだけで、他はジョゼフィーヌとの婚姻生活には多くの問題が存在したという点を多少知っている程度
だから大筋の流れそのものは理解できつつも登場人物の多くについて、はっきり誰が誰というのは判らない部分があったり
それでも話の主筋はナポレオンとジョゼフィーヌの関係、それを取り巻く戦争というシンプルなものであるだけに困惑する事なく楽しめたかな
そして観賞後の感想として真っ先に出てくるのは大スペクタクル映画という点！
大量のエキストラを贅沢に使い、幾つもの戦場を過不足なく描ききった内容には感服するしかない
苛烈な戦争描写だけでなく死に様等もはっきり描くインパクトはあるものの、その分だけ殺陣の描写には目が惹きつけられる
またそういった戦場だからこそナポレオンを鮮やかに活かしていたのだとも伝わってくる映画でしたよ
対して静かにけれど愛憎深く描いたのがナポレオンとジョゼフィーヌの関係かな
ナポレオンはひと目見た瞬間にジョゼフィーヌの虜になった。彼女を深く愛し彼女を自分の手元に引き留めようとした。だからこそ彼女が浮気していると知り激怒した
ここで発生したのが誰を己の支配者にするかという問題かな
ナポレオンがジョゼフィーヌの浮気に感情を乱した点からは彼女を自分だけのものと支配しているはずだという感覚が見え隠れする
だというのに、ジョゼフィーヌもナポレオンを支配する様子が見えてくるのは面白い
ジョゼフィーヌは怒れるナポレオンに自分はただの女だと誓い謝った。なのに雰囲気が変わった瞬間にはナポレオンに自分はただの男だと言わせてみせた
どちらが優勢という話ではなく、互いが互いの支配者であるという構図が見えてくる
二人共に相手の支配者となる事で複雑な愛憎の関係がそこに生まれてくるわけだ
ジョゼフィーヌを支配するのはナポレオンという話になった。けどナポレオンを支配するのはジョゼフィーヌだけではない。戦争も彼を支配している。
戦争に支配されたナポレオンは戦場こそ己の生きる場所と言わんばかりに駆け回り勝利を収める
それは人々を熱狂させる。フランス人民は勝利に溺れナポレオンに溺れるようになる
戦争に支配されたナポレオンが勝利を重ねれば、フランスという国そのものが彼を頼りにするようになる。いつのまにかナポレオンはフランスにすら支配されるようになる
そうすると以前のようにジョゼフィーヌの愛をナポレオン個人として受け入れていた時代には戻れなくなるね。時にはジョゼフィーヌよりもフランスを優先しなければならなくなる
そういった感覚が結婚生活の破綻に繋がったと言えるのだろうな…。ただ、ナポレオンはジョゼフィーヌを愛しているのは変わらないから彼女に愛を捧げ続ける
正直、別の女性との間に産まれた赤子を見せに行くシーンにはドン引きしてしまったけど、ジョゼフィーヌを愛するナポレオンにはごく自然な振る舞いだったんだろうなぁ……
己の支配者としてジョゼフィーヌを失ってしまったナポレオンは戦争とフランスに支配されるだけの悪魔に成り果てる
皇帝という立ち場に上り詰め勝利を重ねていたのに、ロシア遠征を期に帝位を失いジョゼフィーヌすら失う彼の人生は物哀しい
クライマックスには『ワーテルローの戦い』という大一番が大迫力で描かれるものの、既に落ち目の彼が勝てる筈もなく
ジョゼフィーヌを失い、戦争から見放され、フランスからも遠ざけられた
あらゆる支配者を失った最期に彼が口にしたのがそれらだった点には彼がどれだけそれら支配者を愛していたかが見えるかのようだったよ
