タカツテムの徒然雑記

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夏目漱石ファンタジア 感想

これは随分なトンデモ作品だなぁ(笑)
文豪が不思議能力を使って戦う作品であれば某有名コミックが存在するけど、こちらはまさかの肉弾戦。40に差し掛かった漱石が自らを鍛えて政府と武力闘争を開始するなんてトンデモ展開を思い付いた人間がこれまでに居るだろうかと野暮な事を考えてしまう(笑)
漱石の他にも文豪や医者が自らの肉体を使って戦闘を繰り広げるのだからとんでもない話。あまりにも有り得ないから作中で描かれる、時には失礼と思われる描写にも寛容となってしまいそうになるよ


事前設定の時点でトンデモ設定が数多く存在する作品だけど、物語が始まってからもとんでもない展開が
夏目漱石が爆死しかけて脳を取り出され冷凍保存されていた樋口一葉の体で生き返り女子校に教師として赴任する
改めてこんな頭の可怪しい設定を良くもまあ思い付いたものだ

ただ、土台となる設定そのものはトンデモでもその後に始まる物語そのものは何処か堅実さを感じさせるね
そもそもトンデモ作品を書きたいだけなら実在の人物を使う必要はないわけで。本作が現実に生きた夏目漱石を始めとした著名人を用いて描くのはそれぞれの作家や医者が掲げる思想の極みだね

樋口一葉の身体で蘇った漱石が尊重し続けるのは一葉が掲げた『則天去私』なる思想。一葉の意思は認めつつもこれを認められないという矛盾を抱え闘争に明け暮れた彼だから思考し続ける自由の信念
そういった感性が他の作家をも魅了するわけだ
その自由に基づく思想は一葉の身体になったとして遺憾なく発揮される点が新たな人生を手にした夏子の魅力となっているね


夏目漱石は生きる為に「私」という肉体を捨てた形となるわけだけど、似たものを「〇〇去私」の形で他の者達も掲げている様子が見られるね
ただ、それは多くの者が自らの意志で捨てているわけで。暗殺事件を経て救命の為に身体を捨てざるを得なかった漱石は特殊な形
けど、夏子の平素における口調が元の漱石における口調であるように、彼は身体を捨てても思想までは捨てていない

自由に基づく「個人主義」を最大限に尊重する夏子は他者に対しても自由意志を尊重している。だから薫が学校の都合で夢を諦めそうになった時には憤るが、彼女が夢を捨てずに嫁ぐなら意志を尊重して送り出す。芥川が鈴木の文学を押し付けられそうになれば、詰まらん評価に惑わされず己の文学を貫けと怒る
夏子の自由意志の守り手かのよう

だとしたら他者の意志を無視して操ろうとするブレインイーターを許せるわけがなくて。他者に意志を強要された機械人形として蘇ろうとする一葉の捨て様を認められるわけがなくて
表現の自由を尊重して樋口一葉を改めて弔った夏子の振る舞いは却って文豪としての尊厳を象徴していたような気がするよ


それにしても、文豪がその身一つで戦う作品の最後を飾る敵がジオングっぽい兵器とか本当にトンデモ作品である