タカツテムの徒然雑記

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B.A.D. 4 繭墨はさしだされた手を握らない 感想

絶望に沈む小田桐にこの巻で突き付けられるのは己の過ち
あさとの指摘により罪に潰された彼はもはや立ち上がる気力もない。誰かが殺してくれるならそれで良いし、絶食による死が待つのならそれも良い
小田桐は生を捨てる事により過ちを犯した自分を罰しようとした

面白いのはその発想とて過ちだと突き付けてくる点だね
あざかは小田桐の死に意味は無いと突き付け、死を拒んだ姿勢を再考するよう促す。白雪は小田桐の過ちに意味があったと感謝し、その上で小田桐が俯き続けるなら別の誰かが犠牲になると示す
それらは小田桐が罪人であろうと立ち止まっていようと世は動き続けると脅迫してくるもの。だからこそ小田桐は自分を許すなんて理由ではなく、強迫観念の下に再起動できたのだろうね

そこからの小田桐は少し振り切れてしまったようなもの
絶望に浸る少年に死を突き付けられようとも己の為に断る潔さを手にし、綾を捕らえる為に小学生に頭を下げる度量を見せた
けれど、それらの振り切れ具合はあくまで前座。本番はあの光景を見てからだね
彼の中で絶対的存在だったあざかが死んだ。彼の死は確定した。なら小田桐が普通の人のフリをする理由なんてもう無くて

そこからの彼は狂人一歩手前でありつつ、信念を持つが故に確固たる人間でも有るという不可思議な心境となっていたね
小田桐がそのような調子だからか、嵯峨も狂気と理性の狭間のような心境を露わにする。登場してすぐの頃から振り切れていたように見えた嵯峨とて、蓋を開けてみれば小田桐と同じように悶え苦しむ1人の人間でしか無いと判る流れは良かったなぁ…

小田桐や嵯峨にそのような人間性が見えてくると、釣られるようにしてあさとの人間性すら垣間見えてくる
あさとは無力な人々を絶望に突き落としてきた。それが絶対的な前提である筈だった。けれど、異界で小田桐が眼にしたのはあさとに無理な願いを抱えたまま「助けて」と言う者達
そこにはもしかしたらあさとに同情する余地は有ったのかもしれない。けれど化け物のように振る舞い多くの死を生み出した事も事実である訳で
だから小田桐が彼を断罪しようとしたことは何も間違いではない。ただ、小田桐が他者を断罪できる人間ではなかっただけで

本当の意味で他者を断罪できるのはあざかだけ。そんな彼女がとても美味しいシーンで復活するのはクライマックス感たっぷりで最高でしたよ
けれど、それによってはっきりしてしまうのが本物はあざかで、あさとはどうしようもない程に偽物だったという事実
あざかの救いは得られず、小田桐の同情は拒絶した。彼は最後まで孤独だった訳だ


狐は異界に残され物語は終幕したように見える構図。けれど、ここから小田桐が見せた素質が本作の面白さを更に昇華したと認識しているだけにここからの物語を再読するのはやはり楽しみですよ