タカツテムの徒然雑記

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スパイ教室12 《万愚節》のエルナ (12) 感想

ライラットでの革命も遂に本番へ。様々な不安要素を抱きながらも至った正念場は『灯』がバラバラに活動した1年間を決算するようなもの
彼女らがここまでにどう成長したか、何を成し遂げたかが問われる中で別方面の不安要素として表出したのはアネットの闇か

エルナやティア達は任務が終わった後の明るい未来を考えられる。それは彼女らの特徴であり抱き続ける希望
でも、生来的に他の少女達と異なる人格を持つアネットはそれに迎合できないわけだ
アネットは革命の中心人物ではない。けれど革命に絡むならその要素は危険を齎す可能性がある。そういった面が描かれた巻となったかな

勿論、革命の中心は表紙になっているエルナだね
というか、ライラット編が始まった当初はここまで彼女が革命の中心になとは思っていなかったけど
貴族の生まれとして奉仕精神を持つからこそ困窮する国民の為に腐った王政府を倒そうという運動のシンボルになるのは当然かも知れないけれど、まさかこれ程までに革命精神に適合するとは思わなかった
彼女の存在はそのまま革命の動力となるね

けれど対するニケが『灯』の好きにさせるわけがない
それが描かれたのは中央収容所からの一連の流れか
革命に乗じてリリィ達との合流や革命に影響有る人物を救い出そうとした手際は褒められて然るべきもの
なのに、彼女らの策略を全て読みきりある程度成功させた上で策を乗っ取ったニケは尋常ならざる存在であると判る

それでもリリィ達が成長しているのは確かなんだよね。幾つかの局面ではニケやタナトスを上回るシーンも有った。世界的なスパイや暴力の嵐を前に立ち向かえたなら称賛すべきとも言える
特に表面的には絶体絶命と思われた偽革命が行われた最中にエルナが撃たれたシーンからの逆転劇は素晴らしいもの


この巻で最も驚かされたのは過去においてルーカスとヴィレの双子が実はただ殺されたのではなくニケも藍蝗も出し抜いていた点か
過去編で明かされた藍蝗の正体にも驚かされたけど、やはり双子の実力を前にするとその意外性も霞んでしまう
ニケや藍蝗がどう動くかを完全に制御した上で二人を見逃した
それは双子からのメッセージかな。究極のバランサーである彼が呈したのは争いの無意味さ、暗躍に明け暮れたニケや藍蝗の愚かさ

そうした点を考慮するとエルナ達が革命を成就させる為には己の愚かさを認める必要があると言えるのかもしれない
己の愚かさを見通せない者達は『灯』が作り出した革命の狂乱へと呑まれていく。己の愚かさを認められなかったニケはタナトスの失策や王の亡命により『灯』に敗北した
そして己が愚かと知らなかったアネットが向き合う事になったのは自分を闇の存在と思いこみ見逃していた愛情だね

アネットの愚かさは身の滅びに通じるもの。それを藍蝗に曝け出してしまえばアネットに勝ち目なんて無い
そのような絶望的状況だったからこそ、エルナがアネットの愚かさを受けた上で生き延びて、アネットと同じように愚かになると決断するシーンは本当に良かったよ
これでもうアネットは独りじゃないんだろうね


それにしてもこの巻はどこか不気味さを持つ内容でも有ったような
そもそも革命の4日目が描かれていないのもそうだし、所々情報が欠けたままというのも薄気味悪い
リリィに藍蝗の情報を渡した人物、3人のエルナという修正案を出した人物、双子が散り際に発した「弟たち」が指す対象。革命の後半はニケに捕らえられたとはいえ動向が全く描かれなくなったスージーは気になる
思い返せば白蜘蛛が最期に残した『虹螢』についても判らないまま

現状は『灯』の勝利であるように思える。なのにここから状況を引っくり返し世界に激震を走らせる何かが始まるのだろうか?