タカツテムの徒然雑記

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『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』 感想

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公開当時に鑑賞済みなのだけど、とあるシーンに関して自分と全く異なる感想を持つ人の意見を見かけた事をきっかけに再鑑賞

主人公となるキャスパーって自己評価と他者評価に乖離が見られる人物であるように思えたというのが第一印象。それは自惚れが酷いという話ではなく、不遇のあまりに自分が出来ている筈だし自分には出来る筈だという認識と他者から見た評価が不一致であると云う話
判りやすいのがパーシーの扱いかな。彼としては父親としてきちんと相手をしてやれていると思っている。でも、パーシーは自分より仕事優先な父親の姿勢に不満を抱いている
また明朗なのがオーナーとの関係。自分としては新作料理に挑戦して発言力の在るブロガーをあっと言わせたい。でもオーナーとしては不確実な挑戦よりも堅実なメニューで幅広い評価を得たい。これは実力というよりも志向の話だけど

乖離はズレとなってキャスパーを蝕むものだから、それは不倫の形となって表れたりラムジーへの暴言という形で表出したりする。乖離に耐えきれなくなれば彼が全てを失うのは必定
けれど、自分を支えるものが料理の腕だけに成った事で却って彼の料理人人生はシンプルになるね
店舗で誰かの下に就くのではなく、移動販売を気楽に行う商売。自分の売りたい料理の評価が自分で販売した数となる遣り方は自己評価と他者評価の乖離が無くなるだけに彼の満足感も向上させるもの


本作の面白さを支えるもう一つのポイントはSNSの使い方だね
キャスパーの凋落はSNSの負の側面から始まっている。ブロガーの酷評からネットで笑われて、全体公開と知らずに挑発的なメッセージ。おまけに騒いだ場面が動画となって全世界へ拡散…
キャスパーのやらかし要素は大きいものの、誤ったSNSの使い方をすればどれほど名声があろうと関係ないと感じそうになる

けれど、SNS長者なパーシーが移動販売を支える事で売上や話題が伸びるというのはSNSにおける正の側面かな
この点はキャスパーがパーシーへの認識を改める一助となっている
キャスパーが厨房や料理関係のあれこれにパーシーを関わらせようとしなかったのは彼を子供扱いしていたから。それは親としては間違っていないのだろうけど、子供側としては到底納得できない扱い。おまけにパーシーから見ればキャスパーの不充分は幾つも見えるのだから、自分が出来る範囲で関わりたいと思うのは当然
そうした背景を考えると、キャスパーが苦手なSNSを用いて移動販売を手伝う彼の様子は一人前と認めずには居られないもの。だからこそ、夏休みの間だけ、つまりは子供が遊ぶ時期だけという約束だった移動販売の手伝い期間を伸ばしたのだろうし
それが最終的に破局していた夫婦仲を取り持つものとなっているのも面白い


他に言及したくなるのはキャスパーとラムジーの関係かな
当初こそ二人は対立する間柄。料理人と批評家、相容れる関係ではない。特にラムジーの酷評によってキャスパーが凋落したとなれば尚の事
でも、ラムジーが酷評した際のブログで述べていたように彼はキャスパーが作った料理のファンである点は間違いなくて
暴言を吐きあった二人だけど、最終的にキャスパーの素晴らしい作品を味わった事で彼の救い主となるのは趣深い描写

二人の関係は言ってしまえば映画監督と鑑賞者のようなものとも受け取れて
映画監督は鑑賞者の心無い発言に傷付く事もある。だからって公衆の面前で言い返せばそれこそ仕事を失ってしまう。でも今の時代は様々な方法で作品を公開する手段がある。店舗などの箱にこだわらず自分の思い通りに作れば心無い発言をした鑑賞者だって映画監督を評価して手を差し伸べてくれるかも知れない
キャスパーとラムジーの関係には現状に対する失望が有りつつも、同時に未来への展望も感じてしまったよ


感想とは全然関係無いのだけど、本作にて大事な役割を持っているTwitterが色々と懐かしかった……。今は多くが変わってしまったからね…