タカツテムの徒然雑記

主にアニメや漫画・ライトノベルの感想を投稿するブログとなっています。

スパイ教室11 《付焼刃》のモニカ 感想

ニケ相手にサラを失うという敗北から始まるこの巻。前巻にて主役のように奮闘したエルナはサラの件だけでなく、自分が救われる側になってしまった事もあってか精神的ダメージは大きいようで

どこに希望があるかも判らない状況。頼れるのは新たに仲間に加わったジビアだけ
革命を目指すエルナ達の反政府活動を思い返せばジビアの行動もその路線に沿ったものになると思っていただけに、彼女の遣り方は面白く感じられたな。エルナやアネットと全く異なる、ジビアにしか出来ない遣り方。

此処にこそクラウスが『灯』をバラバラに暗躍させた価値が活きてくるね
エルナとアネットの活動が全て無駄というわけではない。でもジビアが別方面からアプローチ出来る手段を持っておく事で、一旦手詰まりになった状況でも新たな革命方法を模索できる
そうしてエルナの地下活動、ジビアの交友関係が結実する事で秘密結社『LWS劇団』に行き着くわけだ。


スージーって双子に拾われた当初の弱々しい印象が強かった為か、今巻にて再登場した際のちょっと頭がアレな感じのお嬢さんな感じには少し驚いてしまったり
こんな子が今の『LWS劇団』の代表なのか……
でも、見方を変えれば双子が遺した遣り方が急進的でなかったからこそ、彼女は生き延びる事が出来て、更には危険とある程度の距離を保って暮らせていると言えるのかもしれないね
ルーカスとヴィレはこの国に幾つもの痕跡を残しているけれど、その最たるものが健全に育つスージーだったように思えるよ。

ただ、『LWS劇団』は秘密結社と言えど、決定的な何かを保有しているわけではない。あくまでも反政府の元締めというだけ。だからそこに加える別の一手が必要になって。ここでようやく表紙を飾る真打ちが登場するわけだ。


モニカとティアが一体何をしていたかは今巻を半分以上読み進めないと判らないという構成が憎いね。彼女らが正体を現した瞬間は驚愕してしまったよ
クラウスが近づくなと忠告したニケの懐に潜り込んだ上で彼女を騙してみせた。それはきっとクラウスですら不可能な荒技
そんな偉業を成し遂げられたからこそ、彼女らの実力が以前と全く異なると理解できる

というか、モニカに至っては成長し過ぎていて、とんでもない存在になってない……?
フェンド連邦で『灯』を裏切った段階で昔のクラウスより強い実力を有していると言及された彼女。けど、今巻の活躍を見る限り、あの時より更に成長し『灯』の一員というレベルに留まらない実力を手にしているように思える。それこそ今ならクラウスに並び立つ実力を披露できるのではないかと期待してしまうよ

だからこそ、モニカを打倒するニケの切り札に驚いてしまったのだけど。
脅威を感じさせない者こそ真の脅威だとすれば、クラウスに並び立ちそうなモニカをして対処が必要と思わせなかった彼の存在はニケにとって最大火力の切り札と言えるのもの。
モニカの急成長に拠って英雄ニケを上回れたと思ったのに、何の布石も無くあのような強者が出てくるなんてね…

敗北の結果を以ってモニカは目標が叶わなかったのかというと、そうではないのが今巻の面白い処
モニカにとって想いとは、知られた事で翠蝶に蹂躙され、無闇に明かした事で仲間の輪に戻り難くなる要因の一つとなったもの
そこから学んだ教訓、想いは隠し通すべき。想いを露わにすれば利用される。かといって明かさずに居ると大切な人に伝わらない。だからこそ、モニカはその想いを使うべきタイミングを今回の任務で最大限に意識していたわけだ

仲間にすら知らせない形で自分の想いと願いを成就させたモニカはやはり『灯』の中で最も優れたスパイと言えるのかもしれないと思える終盤だったよ


他方で革命が予想外の道筋を辿りそうな…
真っ当にニケを封じて革命を成功させるかと思いきや、ニケ信仰を増長させる事で革命を加速させるなんて
これは以前に双子がやった事と似ているね。腐敗の中心たる王党派を応援する事で革命に繋げようとした双子の遣り口。形を変えて『LWS劇団』は再起動したと言える

それはもしかしたら2年前の再現かもしれない。今度も国王を退位させられるかも知れない
でもルーカスとヴィレは革命まで辿り着けず死んでしまった。それすらも再現されるというならば『LWS劇団』に潜む本当の悪が何を仕出かすか恐怖を覚えてしまうよ……

妹はカノジョにできないのに 5 感想

妹を辞めてカノジョを目指すした筈が妹に戻りそうになって
カノジョを辞めて妹になろうとした筈がその道を失いそうになって
春太の周囲で妹とカノジョを巡る展開は混沌と化していた。もしあのまま晶穂が危険な状態に陥っていたら、より混迷を極めるものになったろうね
けど実際は大した事もなく退院。それは改めて春太に猶予時間を与えるものになったと捉える事もできるのかな?

雪季や晶穂が妹とかカノジョを目指す点は変わらないけど、それを決定付けるにはまだ時間が残されている


猶予を手にしたとはいえ時は進み続ける。雪季は中学卒業の時期を迎える。それに連動してか、他の少女達も卒業を意識するかのような振る舞いが目立つ最終巻となったね。

春太郎には多くの少女が想いを寄せる。また、以前に曰くの有った少女もいる。卒業の時期はそんな少女達と一つの区切りを付ける時間ともなる
かといって、卒業は終わりそのものを意味せずこれから訪れる未来への区切りともなるわけだ

最初に訪れたのは晶穂との関係の清算
妹と知った後もズルズルと続いた関係。春太や晶穂がどのような意味であれ前に進む為にはまずそれを終わらせないといけない
そしてその清算は晶穂に春太の妹という立場を与え、逆に雪季に妹の立場を失わせるものになるわけか…
晶穂は春太に出来ない判断を時折見せるけれど、そうした強さが発揮されたシーンとなったね

他にも春太に想いを寄せる少女達による一つの区切りであり未来への飛翔を思わせるチーンがちらほらと
本作のメインはやはり雪季となるのだけど、最終巻にこうして各ヒロインの見せ場が用意されているのは好印象
特に出会った頃とは全く異なる印象を醸し出すようになった透子の挑戦的な宣言には目が引き寄せられてしまったよ


こうして各所の関係性が収まるべき所に収まった段階で知らされた秘密には驚いてしまったよ。晶穂と春太は実の兄妹という前提で様々な苦悩が生じていたのに、その前提が覆される可能性が存在するなんて
厳密に確認すれば黒か白かは判明する。でもそれは自分達はこう有るべきだと決意した関係を変えてしまうかもしれない
その意味では真実に依るのではなく意志によって晶穂を妹と定めた春太は兄として素晴らしい判断をしたね

ただ、後から思えばこの時点で雪季を妹ではないと定めた春太の決断に罅が入っていたのかもしれないけど……

いや、まさかあれだけ状況を整えておきながら最後の最後にどんでん返しを仕掛けてくるとは思わなかったよ…
他の少女達が卒業の時期を契機に区切りを見せたのだから、春太と雪季も新たな関係へ進むものかと…
2人が選んだのは原点回帰でありながらの進展。兄妹でありながらの恋人
自分達は本当の兄妹ではないと知った。それでも意志によって改めて自分達を兄妹と定義し、その上で迷走の中で確信した恋心もそのまま持ち続ける
最初から異性の境界線が無いかのように過ごしてきた兄妹が多くの境界線を認識した後も兄妹で居続けて、その上で結婚という未来へ向かって進みだした

色々と予想外な着地点へ到達した作品となったけど、妹とカノジョという相容れない関係をこうした着眼点で描いた点は面白い作品だったと言えるのかも

魔王のあとつぎ 感想

前身の作品だという『賢者の孫』については全くの未読。というか後書きを見るまでそういった繋がり有る作品だと知らなかったレベル。
だから本作については完全に新鮮な気持ちで読んだかな?


前提となる作品で親世代の活躍が描かれた為か、本作は近年のライトノベルにしてはちょっと珍しい雰囲気をしているような
個人的な印象だけど、ライトノベルの主人公というのは持って生まれた環境に反発している傾向が多い気がしたり。反発していなかったとしても、一人の人間として自己表現する環境を何かしらの形で手に入れている。そんな認識を持っていたり

その認識に反してシャルロットを始めとして、英雄達の子女は親から受け継いだ環境や才能を真っ当に受け入れているね
それは見方を変えれば血統主義と言われかねないもの。当事者達も己の環境に関して特権と明言しているし
その意味で彼女らは最初から親の影響により特別な存在となっている。もちろん修行等の面で努力はしているのだろうけれど、自己の環境に反発していないという点では近年のライトノベルにおいて希有な存在に思えた。
言ってしまえばお利口なライトノベルという印象


そうしたお利口さを土台に持っている為か、作品の雰囲気は『ハリーポッター』から大悪等の諸問題を取り除いたような感じ
親から受け継いだ環境により高校入学時点で才能ある魔法使いとして君臨するシャルロット。彼女が立ち向かうのは一般的な高等学校の生活。だから級友との些細な対立があったとしても、それは一般的なクラスメイトとの交流によって解決される、つまり大問題として扱われない。その辺りは本当にお利口な生徒という印象を受ける。

シャルロットは他のクラスメイトに対して大きな優位性を持っている。それは環境の意味でも才能の意味でも
ならそのまま才能一つでやっていけるという事になってしまうが、ストッパーは早くも登場したね
学校内での敗北を知らない彼女に対して完膚なきまでの敗北と教訓を与える目上の存在。思い上がりかけていた彼女にとって、この敗北は更なる成長の余地を手に入れる機会となったようで
まあ、この敗北というのも親の環境に関連したものであるという点は何とも言えないものがあるけど

今巻はプロローグ的なものに終止した感じかな
とりあえずは交易に来た使節団が国に何を齎すのかという点が次巻においては焦点になりそうだけど


話の本筋には関係ないんだけど、女性陣の制服がかなり際どくない……?
ワンピース型のミニスカートなのに前面にスリットが入っているとかどういう構造なの…。ていうか下着、身に付けられなくない…?
あまりに危うすぎてヴィアが苛めっ子を挑発する場面は「そういうシーン」にしか見えなかったんですが……

記憶喪失の俺には、三人カノジョがいるらしい 感想

タイトルやあらすじからミステリ的な切り口で「本物の彼女は誰?」みたいな話を展開すると思っていただけに、3人とも本当に彼女だし互いに三股かけられていると認知しているという導入には驚いた
記憶喪失状態の勇紀は更に驚いただろうけど


一般的に三人の女性と同時に付き合うなんて倫理的に宜しくないもの。ポリアモリーなんて概念は有るそうだけど、それが大衆的かと云えばそうではないわけだし
だから記憶を無くしたばかりの勇紀が関係解消へと舵を切ったのは不思議ではない

この関係が一般的でないのは三人が三人とも三股を受け入れていた点か
そうなると四人の関係は倫理に反するものというよりコミュニティ的な意味合いが強くなるのかな。明日香や紗季が主に立ち回る事で維持されるコミュニティ
ただ、そう考えた時に問題となるのはコミュニティの主たる勇紀が記憶喪失により人格に罅が入った時、それでもコミュニティは変わらずに存続できるのかという点だね

記憶喪失後の勇紀にとって幸運だったのは明日香達が以前の真田勇紀を取り戻そうと躍起にならなかった点だろうね。また、勇紀自身も以前の自分に固執せず、かといって無視もせず、新たな環境の構築を目指した
その意味では以前に繋がりが有るかなんて判らなかった夢咲陽子と真っ先に会話できたのは勇紀が新たな一歩を踏み出す上で重要なポイントとなったのだろうね


それにしても、ヒロイン勢は誰も彼も美麗と言いたくなるね。そもそも三大派閥なんてものが存在している時点で何処か現実離れしているんだけど
明日香は幼馴染兼彼女として私生活面の世話をしてくれるし、紗季はクラス内世話係兼彼女としてクラス内でのバランスに影響力を行使してくれる
そう考えると後輩兼彼女のひなが一歩も二歩も出遅れているという印象を抱かざるを得ない。そもそも付き合い始めたのも最も遅いわけだし

そうした弱い立場が夢咲との関係に響いた一面もあるのだろうな……
三大派閥に比べたらひなは圧倒的に弱い立場で勇紀との関係も公言されていない。なのに明日香や紗季と親しい勇紀と一緒にいる場面が目撃されてしまったら、繊細なバランスで成り立つ学校というコミュニティを乱すには充分過ぎる事実

こうなると問題になるのは明確に苛めと言いきれない事態に対して何が出来るかという点
勇紀は記憶を無くしたばかりのリハビリ中。過大なストレスは以前の勇紀に戻る妨げとなってしまう状態。勇紀は誰かを助ける側ではなく、助けられる側でなくてはならない
でも、それは以前の真田勇紀に戻る事を前提とした話。今の勇紀にとって前の真田勇紀なんて他人めいたもの。今の勇紀が前の真田勇紀に義理立てする必要なんてない。なら、今の勇紀が得た記憶の中で困っているひなの為に全力を投じるというのは間違った判断とはならないんだろうな
ただ、それが実質的に前の真田勇紀との決別を意味してしまうだけで

そうして勇紀が行った夢咲への逆襲は真田勇紀という存在を学校というコミュニティから蹴落とすようなもの。それが勇紀の想定通りに進んだなら彼は学校で居場所をなくす。それでもひなを助けられるなら、と綺麗事は言えるけど、あの遣り方を見るにやはり主目的は真田勇紀を徹底的に壊しつつ明日香達と構築したコミュニティを終わらせる事だったんだろうなぁ
そうする事で彼は新たな真田勇紀を始められると考えた

結果は彼の想像を超えた女性陣の強さに救われた形となったのだけどね
本作序盤から三股を受け入れた上で勇紀との関係を続け、勇紀が記憶を無くしても関係を変えなかった彼女らを強い強いと思っていたけど、あのような形で利用されても明日香達は勇紀から離れる判断を下さなかった。彼が今だろうと前だろうと変えない決意を見せた。それは勇紀にとってとても心強い味方であり居場所と言えるのだろうね

ただ、その頼りになる彼女達の中で紗季だけ危険度が段違いな気がするんだけど…
あのようなタイプの紗季がどうして勇紀と付き合い始めたのだろう……?

男子禁制ゲーム世界で俺がやるべき唯一のこと3 百合の間に挟まる男として転生してしまいました 感想

まるでラップバトルをしているかのように軽妙洒脱に繰り広げられる会話回しは面白さに満ちていて読んでいる最中は笑いを堪えるのが大変だったよ
一体どういうセンスをしていたらあれだけの大笑トークを思いつけるのか……

さておき、燈色の中にアルスハリヤという燈色と主義が全く異なる存在が入り込んだ事で、燈色の行動がより無茶苦茶感が増すようになったね

燈色は百合を敬愛する者として命を懸けてヒロイン達の好感度を上げたくない。けれどもう充分高い好感度はちょっとやそっとじゃ下がらない。これまでの燈色は策を弄しては失敗を繰り返してきた
今巻では権謀術数に長けたアルスハリヤに頼り局面を変えようとしたわけだけど、いやはや上手く行かない。というよりむしろアルスハリヤこそ百合の間に男を挟みたがるものだから燈色を騙して失意のどん底に叩き落としてくる
特にラピスの一件は本当に酷いというか燈色の性質が上手く利用された形となったね

燈色は百合の為なら命を懸けられる男であり、自分がヒロイン達に好かれる状況は望んでいない。けれど百合に発展するかもしれない女の子の為なら後先考えず命懸けになれる
これは矛盾した考え方の筈が燈色の場合はそれが綺麗に嵌っているものだから、ヒロイン達に好かれる原因となるし、アルスハリヤに付け入れられる隙になる
最早月檻桜が百合ルートに入る余地はなさそうだし、今巻では燈色に想いを寄せる少女が更に増えてしまった事を考えるとそろそろ燈色も覚悟を決めなきゃならない時が来ているような気がするんだけどなぁ(笑)


今巻にてメインヒロインとなったのはミュールだね
燈色に積極的に絡んだわけでもなし、物語上重要な役目を負っているわけでも無さそうな彼女、これまでは言葉通りお飾りの存在といった印象が強かった
けれどクリスというミュールを押さえ付ける強者が登場した事で彼女の悲惨な境遇が露わになったね

無能と蔑まれ唯一与えられた居場所も檻そのもの。何も望まれず何も叶えられない彼女の有り様は虚無に近く、彼女の未来を信じてくれる者なんて誰も居ない
けれど燈色は元となったゲームをプレイしているが為に彼女が掴む栄光を知っているんだよね
それは何にも負けない優位性。燈色がミュールの味方をする当然の理由となる

ここで面白い点はミュール自身は一度も「助けて」と言わないどころか燈色を求めても居ない
その意味ではミュールに助けは不要で歓迎会開催という最低限の補助をするだけで良かったわけだ

助けを欲していたのはむしろミュールを虐める姉のクリスかな
昔こそミュールの良い庇護者で在ろうとした彼女は母の圧力に負けて心の有り様を間違えてしまった。間違えたならその状態は正しくないと言えるわけで
燈色の役目は声なき悲鳴を上げ続けるクリスを正しいミュールの姉に戻してやること。その為に弱者と侮られた燈色がその身一つで勝つ必要があったわけか

最終的に燈色は悪人としてミュールに敵対する構図となった。それはクリスに勝った燈色であってもミュールは怯まず立ち向かうことの出来る人間だという証左で
それでこそ、クリスが見失っていた妹の輝きを思い出せたと言えるのだろうね

一応、構図としてはミュールに嫌われるようなことしたわけだから、ここから彼女の好感度が上がったりとかしないよね……。戦後の反応が描かれず終わったものだからこの決闘の余波がどうなるのかイマイチ読めない
まさか、これで燈色に想いを寄せる少女が新たに誕生したりとか、流石にない筈だけど(笑)

ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編10 感想

二年目の三学期に突入し更に苛烈さを増していくと想像される学校生活。けれど、それを前にしても綾小路は軽井沢との甘い一時を変わらず過ごしているね。
軽井沢としては不仲に成りかけた後で仲直り出来たわけだから甘々になるのも仕方ないけれど、綾小路はそんな彼女を前にしても平生の心境。その様は綾小路が軽井沢から得られるものが既に何も無いと示しているかのよう。
前巻にて綾小路への想いを示した少女達が幾人も居る点を考えると、軽井沢の立場がかなり脅かされていると感じてしまう

特に一之瀬の変身ぶりはなかなかのもの
以前は底なしの善意を身に纏っているような少女だったのに綾小路への好意やクラスの内情を知ってから彼女は全く以って変貌した。人の心を利用しつつ、綾小路とのとの距離を詰める。その上で自クラスを守る。一年目とは全く異なる一ノ瀬がここに居る。

彼女が綾小路との逢瀬をかなり慎重に行っているからこそ、その瞬間を第三者が目撃するとは思わなかったな。
その瞬間こそヒヤヒヤとさせるものだったけど、あっさり場を収めてみせた手腕からして彼女が全くの別人になった点が改めて見えてくる
今の一之瀬は確実に綾小路にとって魅力的な人物と言えるだろうね。この点からも軽井沢の立ち位置が悪くなっていると判る。


今回の主題となる特別試験。実質的に他クラスへ攻撃出来る点では一年目終盤の試験を思い出させるね。
つまりこれはクラス対抗試合。その意味を考えなければ攻略法も思いつかない類のもの
そういった観点から考えると堀北は堅実な策を取ったけど、それ以上では無かったと言えそうだ

今回の特別試験は他クラスへの攻撃が可能という意味を意識すると最も大切だったのはどう守るかではなく誰を落としたいかという点だったのかな
堀北は誰かを落とすという点を全く考えていなかった時点で劣っていると言えるし、坂柳とて後半戦から考えようとしていた時点で遅かった
龍園が最初から誰を落としたいかという点を明確にしていた事を考えれば彼がトップに立ったのは納得できる展開と言える。

もう一つ面白いのは一之瀬の動きかな
言い訳として堀北や軽井沢に説明したように、一之瀬の遣り方は誰か落とそうとするものではなく堀北クラスを利するもの。でも集中指名の相手に軽井沢を選び更に最初の2回に綾小路もセットだった点を思うと、どう勘違いして欲しかったか、そもそも勘違いされても良いと思っていた点が薄っすらと見えてくる
今回の試験で一之瀬は軽井沢を退学させなかった。けれど恐怖の種を植え付け、今後の軽井沢を揺るがせる布石とは出来たのかな


試験後には意外な展開が
坂柳が宣言通り、誰が消えても構わないというスタンスで神室を切ったのは意外ではなかった。だからこそ坂柳が自身の行動に揺らいだシーンには驚いてしまったな
失うと判った際にその大切さを認められなくて判断を間違い、失ってからその尊さに初めて気付いた。坂柳にとって今回の経験はクラスメイトが無感情に接せられる手足ではないと知る貴重な敗北となったのかな

この一件を通して坂柳クラスは幾つもの変貌を遂げるかも知れない点を思うと、坂柳相手にさえアシストした綾小路の底知れなさを改めて感じてしまったよ


そういや、割と普通の雑学を知らなくて脱落にリーチが掛かってしまった綾小路の姿には笑ってしまったな。あのまま脱落して最近持ち上げられ気味の綾小路の評価が一変したかもと考えると一之瀬は別の意味で凄い事を遣りかけたのかも(笑)

魔王都市: -空白の玉座と七柱の偽王- 感想

混沌と形容するのが最適と思える街を舞台に繰り広げられるは勇者と魔王が作り上げた脆弱な平和を巡る陰謀ですか
勇者の娘アルサリサは父への反発から法に基づいた正義の証明にこだわる。その姿勢が魔王都市で起きた弑王事件の真相へと彼女を導いていくわけか

様々な形で描かれているけど、舞台となる魔王都市は本当に混沌としか言いようがなく、法や行政が機能していないからこそ魔族が振るう力が全てとなっているんだよね
そんな場所で法律だなんだと言っても誰も耳を貸すわけもなく。だから魔王都市でアルサリサが真っ当に事件の調査をするという時点で違和感が凄まじいのだけど、それ故に彼女が本気で事件に取り組んでいる、正義の名の下に犯人を捕まえようとしているという点が伝わってくる

そうしてアルサリサが正義を意識すればする程、彼女の相棒となるキードの無法っぷりが見えてくるね
冒頭シーンで彼が闇に属する者だと描かれているせいもあるだろうけど、およそ治安維持期間の人間とは思えない態度を何度も披露する
そうした面はアルサリサのパートナーとして相応しくないとしか言い様がないんだけど、結果的に硬派なアルサリサと柔軟なキードというバランスが成立しているね

このような凸凹コンビはミステリを始めとして冒険活劇の多くに用いられるパワー有る様式であるんだけど、それでも魔王都市に蔓延る僭主七王が曲者だらけなものだから調査も思うように進まない
というか、事情調査の最初の相手として選んだのが僭主七王のイオフィッテな上に会話中に彼女が襲撃されるとかその時点で事件が全く持って単純なものでないと伝わってくるし

調査がそのような推移を辿れば硬派なアルサリサが主では早くに行き詰まっていただろうけど、事件の暗部に手を突っ込む段階になれば闇に慣れているキードが主となりアルサリサを引っ張る構図となる
凸凹コンビの主従が代わる事で難局を乗り切るわけだ

特に面白いのはキードの影響を受けてアルサリサが少し柔らかくなり、遂には商店の襲撃までしてしまった点だろうか
キードに乗せられた挙げ句、往来で潔白と名乗る彼女の様子は流石に笑うしか無い


アルサリサとキードの調査がある段階から飛躍的に進展し、更にはその辺りからキードの正体が垣間見えてくる流れには何度も驚かされたな
キード属する派出騎士局第四課が何やら事情がありそうな場所だったけど、その中身が想像以上の曲者で驚かされたし、キード自身の来歴にも驚かされたよ
彼の行動にはずっと不審感を覚えていたけど、彼が名乗った正体によってその行動が信念に基づいていたものだとようやく納得できたね

アルサリサとキードの活躍に拠って事件は無事に解決。事件後にあのお硬いアルサリサがいい加減なキードを最良の相棒と認める展開は良かったな
無茶苦茶にも程が有る今回の事件が融通が利かないアルサリサを確かに変えたのだと思えたよ

一方でキードの方はアルサリサ程に認識や態度が代わっていないような…

どちらが主従か判らない凸凹コンビ、今後はアルサリサがキードの思惑を超えられるかどうかが焦点になりそうな予感