タカツテムの徒然雑記

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『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』 感想


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アメリカの月面着陸に伴う噂を史実に上手く絡めて映画化している時点で面白い作品になること請け合いの上、非常に巧みに練られた構成や脚本にも脱帽。見事なまでに気持ちの良い映画でしたよ

今でこそ宇宙ロケットの開発は民間も参入するようになったけど、それでも国家規模の注目を集めるイベントである事は間違いないし、国の威信が懸かっていた当時なら注目度はもっと高かったであろう想像は容易い。失敗は許されない、欲しいのは成功という結果だけ
開発者達は成功確率を上げる為に日夜努力を繰り返すけれど、そこに結果だけ手にする為にペテンが混ざったら?という仮定を織り交ぜた本作は現在にて繰り広げられる真実とポスト真実によるせめぎ合いをどこか感じさせる
真っ当な努力により真実が実現するならそれで良い。けれど、より感動的な結末を手にする為には虚実を真実とするのも止むを得ない。真実を追求する発射責任者のコールと虚実を織り交ぜるPR担当のケリーは出逢いこそ面映いものだったけど、立場故に犬猿の仲

この構図で二人を徹頭徹尾対立する者としていたら緊張感ばかりが増すのだろうけど、本作の巧い点は二人の関係に恋愛を絡め、更には月面着陸を成功させたい点は同一であるとした点か。だから時折手段が全く異なり衝突するだけで、予算獲得などの場面では協調できている
それが決定的にずれるのが政治的な要因が強くなった時。そもそも本作で時折挿入されていたように時代はベトナム戦争による厭戦気分の高まりで人々の心に影が差していた時代と言える。また冷戦によるソ連との対立も言うまでも無い。だから月面着陸は何が有っても成功させなければならないミッションであり、であるならば失敗したとしても成功という結果が欲された
それへのアプローチが真実を追求するコールとポスト真実を容認するケリーで異なっていたという話

そこから始まるポスト真実となる着陸シーンの撮影準備はかなりコミカルなものとなったね。極秘任務だから関係者を増やせない、だからって黒服サングラスのお硬い人達にパイロット役をやらせるなんてね(笑)
ロケット発射よりもあちらの撮影の方が失敗しそうな空気になっていたのは間が抜けていて良い具合に緊張感をほぐしてくれたよ
けれど、そんなしょうもない光景が真実に取って代わろうとしているのだから到底許せる話ではない

他方、緊張感を増していくのがケリーとコールの関係だね。表ではアプローチの違いはあれど協力者、裏では異なる真実の準備をする対立者。二人に発射責任者とPR担当者以外の関係がなかったら、そのような裏表が有ったとしても問題にならないのだろうけど、ケリーの中では虚実に拠って塗り替えられる事の無い真実の感情が育まれていた為にコールに真実を告げる展開となるのは良かったな
だから二人は二人が信じる真実の為に動き出せる。そうなればケリーは真実の追及者となり、コールは結果の為に虚実を使えるようになる。立場が入れ替わったわけではなく、双方が柔軟に互いの遣り方を取り入れられた産物

そこからの展開はこちらの期待感に応えつつも想定以上の展開を演出してくれた印象。特に序盤から登場していた黒猫をあのように使って見せるなんて最高すぎて声を上げそうになったよ

多くの関係者の尽力により世界中に真実の映像が届けられた。だというのに、それを見てのモーの発言が「偽物っぽい」だったのは言い得て妙だなと思ってしまったな
ポスト真実に真実は勝ったが、真実を知る者から見ても真実っぽくない映像。それは下手すれば真実の価値を下げるものかもしれないけれど、案外真実なんてそんなものなのかも知れないと思ってしまったよ
どこか間が抜けているが感動的、そして月面着陸などどうでも良くなるような真実の愛によって締められるラストはとても良いものでしたよ