タカツテムの徒然雑記

主にアニメや漫画・ライトノベルの感想を投稿するブログとなっています。

スタァ・ミライプロジェクト 歌姫編 感想

綾里けいし先生の作品を読むのも随分久しぶり…と思ったら、『B.A.D』シリーズ完結からもう10年も経ってるのか…。その後に読んだのも『ヴィランズテイル』くらいだし
それだけに死体描写等は随分懐かしい気持ちに成りながら読んでしまいましたよ


本作で扱われるスタァがヴァーチャル空間の歌姫というのは現代的だね
今やテレビで活躍する者ではなく、インターネット空間でアバターを用いて活動する者がスタァとして扱われたって可怪しくない時代
けれど、彼女らの姿はアバターだから視聴者に見えるその姿は仮初に過ぎず本当の肉体は別にある。現実には炎上等により引退に追い込まれる事は有っても、仮初の姿が危害に遭う事は基本的にない
だからこそ、そんな歌姫候補達がアバターのままデスゲームに巻き込まれたら異常な事態と言えるし、アバターが受けた死が現実に反映されるなんて人智を超えている

でも、別の考え方をしてみれば、アバターの姿を取った彼女らが歌姫としてスタァに登り詰める現代も実は人智を超えたものなのかも知れない。そこに超常的な神の手が関わっているとしたら?という前提は面白い
エンターテインメントは誰かが操作しているのではないか?とは昔から邪推の対象となってきた部分では有るけれど、そこに本作はデスゲームを絡めたわけだ


第一幕で描かれるのは純粋なファンとスタァ候補の遣り取りだね
七音は歌姫に憧れつつもまだ何者にも成れていない。どちらかと言えば愛が強いファンに過ぎない
七音が熱を上げる神薙も認知度は低い。あの活動を続けていても羽ばたける可能性は少ない
でも、そこに有る二人の遣り取りはとても純粋。七音は歌を聞きたいと応援して、神薙は応援に向き合って歌って
そこにスタァに通じる要素は微塵も無いけれど、それだけに人を好く、好かれた想いに応えるというエンターテインメントの原点的要素が詰まっている

そう思えるだけにArielの死を契機として【少女サーカス】の募集が始まり、デスゲームへと至っていく流れは現実離れしているとしか言い様がない

【少女サーカス】発表からのインターネット空間における反応は面白いものが有るね
Arielの代役を死後すぐに求める発表には誰もが憤る。その光景は理解できる。けれど、センセーショナルな盛り上がりはセンセーショナルだからこそ一過性でありAriel自身は忘れ去られていく。彼女が残した動画は残ったとしても歌姫の死を悼む光景とは微妙に異なる要素を内包している

だからこそ、異質に過ぎる【少女サーカス】に挑む者達が現れるのも自然の流れであり、そこで異質なデスゲームが行われても進行を遮る事はできないわけだ


本作の面白さとなる要素の一つとして、リタイアした歌姫候補達の悔やみと追い込まれた心境が描かれている点だね
既に退場しているのだから、その段階で彼女らの内面を描いても応援したくなるような親近感は沸かない。けれど、現実のヴァーチャル歌姫でも生じていそうな心の擦り切れ具合はエンターテインメントとして消費されるとはどのような意味かという点を余す所なく描いている
言ってしまえば、このように追い詰められたのならばArielの死により空座となった歌姫になる為にデスゲームに挑む事もやぶさかでないと思ってしまうのも意外ではないと云うか

あれらの描写からはヴァーチャルで活動していようと、アバターの殻を被っていようと、その内側には人間が居るのだと伝わってくるね


デスゲームに登壇する事になった七音は意外な才覚を持つタイプだったようで
歌姫に憧れつつもそれ以上の活動は殆ど出来ていない。その意味では歌姫レースにおいて最下位を走っていると言える。でも、得体の知れないコメントに歌えと強要された際に「一理、ある」と思考できるのは割りと普通ではない
パニックによって思考を放棄しないなんてデスゲームに於いて最も秀でた才能と言っても良いかも知れない

だからといって、死後に内面が描かれた歌姫候補達のように追い込まれていなかったわけではない。彼女もデスゲームに参加しても良いと思えるだけの自暴自棄が有った
それでも彼女がある種の希望を持ったままに【少女サーカス】に挑めたのは偏に推しを守りたいという純粋な感情だけは捨てなかったからだね

その点では七音はあのデスゲームにおいて、ジョーカーのような存在
歌姫に成る事を第一目標と掲げて参加した訳では無い。他者を蹴落としたい訳でもない。純粋に神薙を守りたいだけ
七音の心構えは他の者と違うから度重なるトラップや諸問題に対して的確な切り抜け方が出来る

ただ、七音にとってどうしようもなかったのは他にジョーカーが二人も混ざっていた点か。皆が無事に脱出できるようにと七音が考えても、殺戮を望む者が混じっているなら抗いようがない
七音がその時々で状況の最適解を選ぼうとも、他の者が状況を進めるなら歌姫候補は脱落していく

それでも七音が確かに持つ強みであり、同時に神薙も持っていたのは推しに恵まれて欲しいという本当に単純なファン心理かな
二人共追い詰められる形で参加した【少女サーカス】だけど、その果てに見定めたのは神薙が、または七音が生き残る結末
ファンとしての在り様はデスゲームを切り抜けると同時に、最後のジョーカーであるArielへの対抗策と成るね
Arielが渇望した純粋なファンを誰よりも体現した者達が眼の前に居るならばArielはファンが望む歌姫として自身を締め括る事ができる

それは幾人もの死が生じてしまった後としては本当に今更な態度なのだけど、エンターテインメントを提供した者の死に様としては不充分だなどとは決して呼べないものだったよ


まるで何事もなかったかのように舞台の幕は降ろされたのだけど、果たして本作の続きの物語は書かれたりするのだろうか?
今巻を『歌姫編』と題してしまったなら次は別のジャンルを扱う事に成るのだろうけど、その場合七音や神薙はどう関わるのだろう?というか、七音と神薙のイチャイチャはもっと見たい気がしますよ?

青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない 感想

運命の4月1日だろうと岩見沢寧々の件を解決したのだから、これ以上の問題なんてやって来る事は無い筈…という慢心を嘲笑うかのように現実をひっくり返してみせた冒頭には本当に驚かされたよ……
ステージに辿り着くまでもランドセル姿の麻衣という軽いジャブが有りつつ決定的な問題は無かった筈。だというのにいざフェスが始まってみれば現実が書き換わっていたなんて防ぎようがない奴じゃん……

これまでも広範囲に影響する思春期症候群というのはあったけど、あくまでもそれらは個人の認識を主軸にして現実に作用するタイプが多かったように思う
だというのにこの霧島透子に関する事象は誰が中心かも判らず現実があっさり塗り換えられてしまった。おまけにもう一つの世界まで侵食されているなんて規模が大き過ぎてどう対処すれば良いかも判らないタイプ
ただ、そう考えると何故咲太や郁実は麻衣のステージを見た後も認識が書き換えられなかったのか、そして郁実は何故消えたのかという点がよく判らないのだけど……


今巻は麻衣を筆頭に世界が書き換わってしまったのだけど、それによって咲太の近しい人物も異なる現実に突入している点が何とも言えないね…
特に何の脈絡も無く『かえで』が帰ってきたシーンは驚きつつも、このような展開を待っていた…なんて気分になってしまった
だって、あのかえでが少し成長した上で峰ヶ原高校に通っているなんて少し話を聞いただけでも目頭が熱くなる…。他にも双葉が国見と付き合っているというのも何とも言えない心情になってしまうし…

それらはまるで各自の望みが叶ったかのよう
だから現実が書き換わっていたとしても安易な否定が難しい。咲太が最も大切にする麻衣に何かしら異変が起きているという点では解決しなければならない状況だけど、他の事象を見ると解決して、無かった事にしてしまう事が正しいとも言い難い
全てが上手く回る世界において咲太の方が異常分子かのよう

だからこそ不安感が最大級に膨らんだ瞬間に翔子が現れたシーンには救われた思いになってしまったよ……
咲太が救われた時とはほんの少しだけ異なる相手だけど、あのような振る舞いが出来るならやはり『翔子さん』だと思ってしまう

そこからの展開は驚きというか、真実はそこにあったのかと云うか…
思えば、幾つもの未来を見た翔子をして霧島透子を知らないと言うのなら、唯一の未来となった現状における特殊要因にこそ霧島透子出現の理由があると考えるのは指摘されれば当たり前の話で
でも、だからって翔子が助かったから霧島透子が出現したなんて思いたくもなかったな……

けれど、それによって咲太が目指すべき方向性ははっきりしたね
交友関係が色々な意味で限られる咲太にとって気の置けない友人に成り得た美織。そんな彼女が書き換えられゆく世界の中心人物であるならば、咲太は何とかして彼女の問題を解決しなければならない。だというのに、ここに来て新たな問題として浮上してしまうのが彼女はどのような問題と対面しているのかという点

透子を死なせたと悔いる彼女にとって、透子が生き返ればそれで済む問題なのか?或いは透子の死と直面できれば解決できる悩みなのか?
また、咲太にとってもこの書き換えられた現実を元に戻してしまう事が本当に正しいのかという点も問題。思うが儘に元に戻せばかえでは再び失われるし、双葉の幸福は途絶えてしまう

それだけに何らかの確信を抱いた様子の翔子の行動に期待してしまうが…

ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編12 感想

今巻はかなり凄い展開になったな……
坂柳と龍園の勝負結果こそ事前に予想していた通りだったけど、そこに至る過程が完全に想定外だったし、ノーマーク気味だった堀北クラスと一之瀬クラスの勝負も予想外にも程が有る結果となったよ…


前々からヤバいヤバいと前フリされていた学年末特別試験、しかしいざ蓋を開いてみればまさか人狼ゲーム系とは思わなかった
これは綾小路が推理していたように何かしらの横槍が入った…?

兎も角、今回の試験における特徴は事前対策が不可能だった点だね。これまでも事前の備えをしても意味は薄い試験は有ったけど、当日まで何が行われるのか教員すら知らないというのは異質
だからそれまでの期間で出来る事なんて基本的にない。クラスメイトとの対話を進めた坂柳の行動が良い準備と映る程度
そのような認識だからこそ、事前に大将の地位を要求し更に勝敗に拠って変動する報酬を要求した綾小路の判断が際立って見える

そもそも自分が矢面に立つを良しとせず、暗躍を繰り返してきた綾小路を大勝負の大一番で使えるなら頼りになる。けれど頼ってしまったら今後は頼れない
危うい賭けだけど、ここで迷うこと無く選択できた堀北は良い成長をしていると感じられたよ

そのような認識だったから、いざ始まった特別試験で堀北が一之瀬に全く歯も立たなかった点は驚かされた
確かにアレは一之瀬の得意分野というか、人を深く観察し人と広く交流しなければ真実が見えてこないゲーム。似たような点では坂柳が一切のミスをしなかったのはクラスメイトとの対話が活きた部分があったのだろうし
その意味ではその道を歩み始めたばかりな堀北では分が悪かったという話

逆に言えば、ここで敗北を知った堀北は成長の余地が生まれたと言える
それを意識したからこそ、綾小路は堀北を労ったのだろうし


今巻のメインイベントの一つとなる綾小路と一之瀬の戦いはかなり特殊な推移となったね
前提として、一之瀬は堀北に圧勝してしまう程にこの試験の強者であり綾小路に惚れた事で様変わりした人物
なら、綾小路は彼女とどう向き合うかを決めなければならない
もし、彼女から勝ちを拾うなら彼女を上回る観察力を持つか背信者ルールによって彼女を乱すしかない

そう思っていただけに、綾小路の策略が言ってしまえば1年以上前から始まっていたなんて想像もしていなかったよ
実際には倒す為に仲良くなったのではなく、仲を深めた結果として彼女を倒す武器を手にしたというべきか
今の一之瀬はクラスとして敵対していても綾小路を心の底から信頼している。そこにこそ、彼女の心をぶち壊すチャンスが有る

だからって、ああまで仕掛けるなんてなぁ…
あの場面で前園を始末したのはそれこそ一之瀬の精神的な安定を崩す一手。約束を破り、更には一之瀬にとってタブーと言える退学者を出す事で彼女の信頼を揺らがせている
その上で自分達の関係が根底から思っていたものと違うと告げられればそりゃもうなぁ…

以前の一之瀬は退学者を出しかねない状況や自分の罪により立ち直れない状況だった。それが綾小路への恋心で持ち直したのだから、それが崩れてしまえば待っているのは闇ばかり
彼女の心は完全に折られてしまったのだろうね……


もう一つのメインイベントが坂柳と龍園の勝負
前巻にてどちからに破滅が訪れる賭けを交わした二人の戦いこそ今巻はこのイベントに費やされると思っていただけに、予想外の展開を見せた綾小路の後だと少し地味な印象…と暫くの間は思っていましたよ
と云うか、坂柳と龍園こそ今回の試験を真っ当な実力で戦わせていたんじゃなかろうか

だからこそ、次第に見えてくるのは坂柳と龍園の実力差
龍園とて参加者をよく見て優等生等を当てているが、坂柳の方はまずミスすらしていないね
それは判断力だけでなく観察力すらずば抜けている証
おそらく今回は運が悪かった等という話ではなく、今の龍園では坂柳に届く事は決してない

だとしても、あの龍園が何の見栄も見せずに敗北を認めるとは思わなかったな
それはある種、気持ちの良いシーン。龍園の負けでは有っても彼の成長を見れたのだから

そのように感じたからこそ、ここに綾小路の罠が仕込まれていた点をおぞましく感じてしまう
あの伝言は龍園が敗北を認め、坂柳にお膳立てする心境に成らなければ意味のない代物。いわば敗者が勝者に道を用意する状況に綾小路は仕掛けを打っていたわけだから

綾小路にとって橋本が生き残るも関係ない
表向きの伝言だけに坂柳が気付いて彼女がAクラスを成長させても良かったのだろうけど、成長の余地がより大きい龍園こそ綾小路が望んだという事実は重く響くね…


終わってみれば、今回の試験は綾小路の一人勝ちに
それもクラスリーダー全てを倒したと言っても良い状況なのだから恐ろしい
堀北は綾小路との賭けに負け、クラスの戦力から彼を失う
一之瀬は恋する相手から裏切られ、頼る相手もなく闇に落ちるだけ
坂柳は綾小路から望まれていない事実を突き付けられ学校を去る
そして龍園は敗北を認めたのに、その認める心を利用する形で助け出された

今回の試験はこれまで以上に綾小路の異質さを浮き彫りにするものになったね
けれど、そんな彼がAクラスを目指すレースに関わる事はない。その状況とて異質

恐らく次の12.5巻は波乱の後始末が為されるのだろうけど、これってひょっとしなくても綾小路の人間関係が潰滅する事態も有り得るんじゃなかろうか……

正しい勇者の作り方 感想

幾人もの勇者が存在していて、その勇者同士でデスゲームを行うとか凄いコンセプトの作品…


人類史上最高の勇者であるブルムですら魔王には敵わなかった。だからそのブルムを超越する新世代の勇者を造らなければ成らない。
だからって貴重な勇者を互いに潰し合うようにして新世代の勇者を選別するって本当に凄い話だな、これ……

一方でこの作品で論じられる新世代の勇者というのは一般的なイメージを持たれる勇者、つまりは全人類の救済を行うような勇者に対するアンチテーゼとなっているとも言えるんだよね
あらゆる犠牲を許容せず全てを救うのが一般的なイメージによる旧世代の勇者とするならば、犠牲を予め容認してただ魔王を殺す事にのみ特化した者を新世代の勇者と呼ぶのかもしれない

ただ、それによって犠牲にする対象が守るべき人類であるという点が勇者と云う存在の矛盾を嫌と言う程に体現しているね
この勇者ゲームで生み出されるのはむしろ新たな魔王ではないかとすら思えるよ。主人公イフの能力もあんなものだし


本作を読んで気になった部分としては、旧世代または一般的な勇者に対するアンチテーゼとして新世代の勇者が位置づけられているのは判るのだけど、その新世代の勇者に対するアンチテーゼと言えるシューラをこの巻で死なせてしまった点は気に掛かる…
狂っているとしか言い様がないデスゲームに対して疑問を呈する代表者が居なくなってしまったけど、今後は従順にゲームを行っていくのだろうか?それともイフなどがゲームの仕組みそのものを壊してしまうのだろうか?

あと、そもそもからしてある程度追い詰められていると思われる人類が貴重な戦力を選別試験として潰し合うのってどう考えても非効率に思えるけど、この勇者ゲームによって生み出される新世代の勇者とはどのような超常的な力を持つ者なのだろうね?

スクール=パラベラム (2) 感想

詠美ちゃん、前巻ラストで思わせ振りに顔見せした際は京四郎の平穏を完全無欠にぶち壊す巨悪に思えたけど、普通に良い人だこの人……!
約束は律儀に守るし、生徒達の安全だけでなく感情面も慮っている。裏取引は行いつつもそれが敗れた時に恨み節に走ったりもしない
こんな人に迷惑掛けるとか京四郎の方が悪人じゃん……


さておき、今回のメインとなるのは風香だね
第1巻登場時はふわふわした言動からその本性が掴み辛かった少女。1巻時点の情報で自分なりに彼女について解釈したつもりだったけど、この巻を読んでその思い違いを痛感させられたよ
この2巻はこちらの先入観をぶん殴ってくるかのような話だったね

コスフェスという学生の実力を試す場でありながら裏で進められていたのは政治的な取引。梶野等は何も知らされず用意されたシナリオだけを見て、その範疇でしか動く事を許されない人間
対して、京四郎や風香等の特別な能力を持つ人間は別枠。利用価値が有る彼らはシナリオで用意された役割が有りその通りに動く事を期待される。ただし、特別な人間だけにシナリオを壊す可能性を秘めている

京四郎は主人公としてその内面を詳らかにしてくれている。だから彼が詠美の策略に憤ってそのシナリオに叛逆の意思を示すのは納得できる
けれど、詠美を前にした風香は内面を容易に理解させてくれない。その上で詠美のシナリオも京四郎の配慮もぶち破る
それは彼女が持つ特異性が為せる業であるように思えてしまう。言葉少なな彼女は誰にも思い通りに動かすなど不可能な人間に見える

でも、そういった認識こそが間違いだと判ってくるのが後々の展開だね
謎の傭兵として学園に紛れ込んだ京四郎と誰より抜きん出た容姿を示す風香。二人の関係は京四郎がナイトとしてお姫様の風香を守る、それが当然の構図に見える
その関係を当たり前のものと思い込みすぎて風香は何も出来ない何も判らないとまで思い始めていたのが京四郎と言えるのかな

そもそも本作って舞台そのものが特別なものだから、そこで他者より秀でた存在になるのは当たり前な状態になってしまっている。でも、問題なのが学園内でも才能の優劣が有るという点
京四郎の周囲には紗衣や白上や雪代みたいなのが居て、特別な筈だったのにそこに届かない梶野が劣っているみたいに映ってしまう。そして紗衣達は梶野の心情を理解してやれないし、梶野も紗衣達を理解出来ない
その環境で誰よりも特別な風格を持つ風香はそれこそ誰であっても理解できない孤高の存在に思えてしまっていた

でも、それは理解できないと理解したのではなく、理解を放棄しただけかも知れず
無理解の波に耐えられず漏れた彼女の心情は京四郎だけでなく読者の思い込みを殴ってくるものとなったね
特別だからオーラが有るから。それは風香を一見した際の重要な部分かもしれないが、それで彼女の全てが判るわけではなく
あのシーンで風香が語った事に何も特別なんて含まれていなかったね。とても当たり前でどこにでも居る少女として当たり前の事を語っていた
そこで京四郎が示した反省は確かに風香を失望させたものかも知れないけど、同時に同じ世界の住人であると踏み込んでくれた京四郎に思う処はかなり有ったんじゃないかな

その後に行われたコスフェスでの風香の大暴れには目を見張るものがあったね
その意味では彼女は特別になったのかも知れない。でも、彼女が自分の意志でその特異性を思う存分に使ったなら、それは特別だったというより実力を示したと表現した方が正しい
こういう人間だろうと思い込んで見ていた頃も彼女はとんでもない人間と認識していたけど、実力を発揮して別の意味でとんでもないと思えたよ


陰謀も騒乱も有るけれど、賑やかな学園風景。だというのに、次巻では大変な事態になるようで。というより完結してしまうんだ…

スクール=パラベラム 感想

多弁さを介して自身の有能をひけらかす主人公、なんて導入を見た時はどういう感情を抱けば良いか判らなかったよ(笑)
自分は無能だと言いつつ世間的には超有能みたいなタイプよりかはマシかも知れないけど、鼻に付くレベルの才能を豪語する様に引かなかったと言えば嘘になる

だからこそ、そんな主人公・京四郎が父親への嫌がらせの為に自分の才能を腐らせるなんて展開には逆に興味を惹かれてしまったな


主人公は序盤からキャラが濃いし、舞台となる五才星学園も設定が濃い
それだけに次いで登場するヒロイン達の印象が弱いのではないかと一瞬思ってしまったほど
けれど、読み進める内に初見ではキャラが弱いと思えてしまう有り様にこそ彼女らの魅力の一端が詰まっていたのだと思い直せたよ

風香という人物は喋る言葉に意味が有るのか無いのかとても曖昧な人物。何と云うか雰囲気で喋っているという表現が最も適合しそうに思える
けれど、自分と紗衣達との違いを内外で例えた表現性には彼女が物事の本質を重要視しているのだと伝わってくる。ただ、伝達力が非常に低出力である為にそれが伝わりづらいというだけで

伝わりづらいという点では紗衣も同類かな
初登場時の暴言やキャンパスに向かう姿の乱雑さから彼女は人との交流を求めていないタイプかのように感じてしまう
けれど、後々の述懐で示されるように彼女の側こそ人との付き合い方や自分の在り方に悩んで自暴自棄に成りかけていた人物

こうした初見の印象と深堀りされた際の印象が全く異なってくる点はこの巻で登場した女性陣全員に対して言える事
だとしたら、京四郎とて同様と言えるのかも知れない
作者が後書きで不自由なコミュニケーションについて言及しているけれど、つまり本作は第一印象だけでは伝わってこない要素を何百ページも掛けて少しずつ理解していく物語なのかも知れないと思えたよ

そう考えると京四郎の圧倒的な人間的な強さは紗衣達が簡単には言葉に出来ない想いを引き出す為の仕掛けなのかもしれない

学園に入学した事で行き詰まり始めていた紗衣、もし京四郎と出会わなかったり今回の陰謀に巻き込まれなかったりしたら、きっと何も満足行く物なんて作れずに終わっていただろう
けれど、理不尽な陰謀の標的とされた上で京四郎が全ての夜空を塗り替えるような強さによって彼女に纏わり付いていた余分な言葉を拭い去って見せた
それは紗衣にとって間違いなく救いと言えるもの

また、学園に腐りに来たのに、紗衣や風香達との関わりによって京四郎自身の言葉にされていなかった想いも示されていたのは印象的
同年代とありふれた生活が出来なかった彼が求めていたものはなんて事のない代物だったわけだ

似たような点ではきっと宮古も京四郎との出会いによって明かすつもりの無かった想いが開かれてしまった一面は有るのだろうな。そちらはちょっとまだ見通せていない部分はあるだけに今後に期待してしまう


キャラの濃い主人公に設定の濃い舞台、その中で描かれる淡い想いの遣り取りに注目してしまう、良い作品であるように思えましたよ

男子禁制ゲーム世界で俺がやるべき唯一のこと5 感想

何となく予想していたけど、やっぱりクリスは記憶を保ったままだったかぁ(笑)
なのに燈色からは記憶が綺麗さっぱり消えているものだから彼にとっては理解不能、アルスハリヤと読者だけがニヤニヤ出来てしまう状況
というか、お洒落しているだけに留まらず燈色が誘えば『そういう』ホテルに連れ込めそうな感触になっているあたり、恋愛ゲームに例えればもう攻略完了しているくらいの好感度っぽいのが尚更に笑えてくる
これは今後のクリスの反応が何もかも楽しみになってくる変化となったのかも

また、別方面にてヒロイン力を増しているのが緋墨だね
当初こそ敵として登場しながら燈色によって救われた事で人生が一変した彼女。今では言葉の端々から好意が溢れ出ている
それでも、燈色の為に彼女のフリをするなんて提案をしてくるとは思わなかったな。燈色とは距離感を保った付き合いを続けるものかと思っていたけど
今回はスノウの介入によって有耶無耶になったけど、割と危ういくらいに感情ダダ漏れになってるような…


本編は三寮戦を前にした牽制が数多く描かれたね。特に目を引くのは朱の寮も蒼の寮も燈色を狙っている点か
以前なら男である彼に価値を見出す者なんて居なかったろうけど、魔人と戦った上で生き残った彼は貴重な人材。また、フェアレディという大物を討伐してもスコアが微動だにしないと証明してしまった彼はあの世界において特異点そのもの
だからって三条燈色争奪戦が始まる程とは思わなかったけど。彼の立場、益々ややこしいものになってない……?

ただ、争奪戦そのものは燈色が重視していなかったようにちょっとしたレクリエーション程度の戦いに。本場は彼女が現れてからか

3巻での初登場時は何かしらの過去を抱えた家庭教師という程度の扱いだった劉、いざ戦いの場面が描かれてみれば普通に最強格なのでは?っていうくらい強い…。強者に分類される筈のフーリィが初撃で勝ちを諦めるレベルって相当ですよ
そのような存在に対応できるアステミルって本当に強かったんだと再認識。いや、ちょくちょく彼女の強さについては言及されていたし、見返すと初登場シーンでも「エスコ世界の最強」とまで評されているくらいなんだからそりゃ強い筈なのだけど、最近はコメディリリーフ的な登場が殆どだったからなぁ
純粋に強いアステミルの姿には本当に驚かされたよ

でも、それは視点を変えれば劉は最強のアステミル並に強いとも言えてしまうのだけど
そんな劉が狙うはミュール。これまではおままごとのような扱いで黄の寮長としての立場を保証されるだけだった彼女に死神の姿で訪れた終わりの時間。正真正銘の無能でしかないミュールに抗える筈もない
なのにミュールが未来で輝けると知っているが為に無条件で彼女を信じる燈色は力強いね

そのように無条件でどこまでも信じてくれる燈色が居ればミュールも自分の在り方を変える努力を始められる。騙された形とは言え、アステミルから教えを請うなんてね
殺す気で育てるアステミルの修行に付いて行けるようになれば心持ちも変わり始める。フレア相手に啖呵を切ったシーンには彼女の成長を見てしまったよ

それでもミュールが手にした変化は小手先のようなもの。彼女にとって本物の抑圧である母親が現れれば一溜まりもない
それでも燈色は彼女を信じる姿勢を1ミリも崩さないんだもんなぁ

これまでのミュールにとって自身を成り立たせる価値観・言葉はアイズベルトという家名しか無かった。けれど、どのような状況でもミュールを信じる燈色によって彼女を成り立たせる価値観・言葉はただのミュールでも生じるように成った
此処が底だと思っていた場所よりも低いどん底にまで落ち込んで、ようやく彼女は自分の力を信じて上を向けるようになったわけだ

そこからの変化には本当に驚かされたと云うか何と云うか…
これまで目を向けてこなかった寮生の傾向を知り、かつて放り出した先輩に謝罪し、更には寮内の雰囲気向上まで
母の言葉に縛られ他人に心を開けなかった以前の彼女からは考えられないような変化は心に染み入るものがあるね…

母の呪いから逃れどん底から這い上がり始めた彼女だから、今更別の失望が訪れても大きな問題にならない。なぜなら彼女を信じる者は燈色だけではないのだから
各寮の死神が判明し更にはルール説明もされた事で三寮戦に向けた下準備は全て整った印象。ここからミュールがどれだけ己という存在を証明できるの楽しみだよ

後、同じ陣営と成った事でクリスが燈色にするだろうアタックがどのようなものかちょい楽しみだったり