タカツテムの徒然雑記

主にアニメや漫画・ライトノベルの感想を投稿するブログとなっています。

あした、裸足でこい。5 感想

二斗に未来への希望を持たせるこれまでのやり直しとは違い、真琴に起きる問題はかなり重い
後輩の一家心中を回避するなんて、一般的な努力でどうにかなるものではない。これまでは二斗に相応しい人間になるとか、彼女の人間関係を改善するという手の届く範囲の問題だった
でも、今回は巡の知らない場所で起きる悲劇をどうにかしようとする話で
おまけに真琴がそのような袋小路に行き着く原因の一端を巡自身が担っているのだから尚更に対処は難しい

巡は過去をやり直してでも二斗を取り戻そうとしたし、彼女がループして自分の可能性を駄目にしたと知っても関係を終わらせたりしなかった。巡はそれだけ二斗に深い愛情を持っている
それは横から掻っ攫うなど不可能な想いの深さ。前巻にて、真琴は他者に表明する程の深い巡りへの愛情を見せている。これで巡の想いが二斗への一方通行であれば真琴の想いが叶う可能性もあったのかもしれないけれど、生憎と2人は両思い
真琴の想いは深いだけに叶わない未来も受け容れられない
そうなれば真琴は悲劇の未来へと突き進んでしまう

巡と二斗ではどうしても届かない解決策。ここで五十嵐や六曜に相談する展開になるとは本当に予想外だったよ
個人的な印象として、ループ物って時間を繰り返している点を明かさないからこそ、未来を知らない周囲と知っている自分の間でアドバンテージが生まれるという認識だっただけに、ループしている事実を関わった人間に明かしてしまうのは驚き
また、それによって4人で新たなループを起こすのだから衝撃的でトリッキーな展開ですよ

二斗一人では良い未来は掴めなかった。巡が協力しても真琴までは幸せに出来なかった。4人も集まればかなり効率的なループが可能なのでは?と思いきや、ここで前のループにおける知識を過度に使わないと取り決めるのは良いね
真琴の心中という重い悲劇を回避しようとする彼らが、けれど自身の青春も忘れずに楽しもうとしているのは好印象。自分の幸せを忘れてしまった人間が誰かを幸せにするなんて難しいだろうし

そんな4人だから2度目になる各イベントも楽しげだね
何もかもが好調に進んでいる。だからこそ、それでも巡の想いが届かなかった展開はずしりと響く…
そもそも巡も二斗も互いにを愛しながらループを繰り返してきた。今は真琴を助ける為に真剣に行動していても2人の根っこの部分は変わらない。その状態で真琴は誤魔化せない

そうして行き詰まってしまった巡がした最後の決断。あれは果たしてどうだったんだろうな……
個人的にはあまり賛同できない選択だっただけに、その流れで完結してしまった点をどう受け止めれば良いか判らなかったり
ループを始める前に戻るという話であれば、それが巡である必然性は果たして存在するのかとか、また世界線がどうのという点を考えた時にこの選択は本当に真琴を救うものと言えるのかとか…

青春のやり直し、その最後に生じた物語が青春と掛け離れたものであり、またその解決策も青春の否定に近いものであった事をどう受け止めれば良いかやはり判らない……

乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 13 感想

遂に始まる最終決戦を前に、リオンがあの地位に就いた事で王国が一つに纏まる展開は熱い。おまけに敵対していた時期も有ったフォンオースやアルゼルも協力するなんてね
最終決戦に相応しい舞台。けれど、成否の殆どがリオンの双肩にかかっているとしたら彼の無茶を止められる者なんて誰も居なくて

そこで前巻から人間臭さを増したルクシオンだけが必死にリオンの無茶に反発するのは趣き深い光景
初期の頃のルクシオンなんて本当に人工知能を持った機械でしか無くて、相棒感も薄かった。けれど、幾つもの冒険の中でリオンと憎まれ口を叩きつつ幾つもの死線を共に越えて
そんな2人にはいつの間にか不思議な絆が生まれていたね。作者が後書きで述べていたけど、オリヴィア達はヒロインとしてリオンの傍に居るけれど、ルクシオンだけは唯一の相棒としてリオンの傍に居た
だからルクシオンだけはリオンの捨て鉢な振る舞いに最後まで抵抗して

ここでリオンの側も前巻にて婚約者達にしたような突き放す態度を取らない点にルクシオンを特別視しているのだと見えてくる
勿論、ルクシオンとオリヴィア達とでは関係性が異なる。リオンはルクシオンの力を借りて戦って来たのだから、ルクシオンがいないと彼は何も出来ない。その意味ではオリヴィア達のように突き放す事は不可能と言える。でも、突き放せないからと言って、「お前には最後まで付き合ってもらうぞ」なんてリオンが言える相手は他に居ないと考えれば、やはりリオンにとってルクシオンは特別なのだと判る
だから、危険な強化薬の投与も任せていると言えるのかも知れないしね


リオンとルクシオンだけでなく、今巻は他の面々も命を削るような激闘を繰り広げているね
中でも5馬鹿というかユリウス達の健闘は目を見張るものがあったよ

初登場時は鬱陶しいやられ役で、共和国編の辺りから鬱陶しい馬鹿になって、遂に前巻にて熱い魂を持つ親友となった
だからってリオンと共に戦える程になるとは思わなかったけども。おまけにリオンを信じて先に進ませるなんて彼ら以外との間柄だったら成立しないような振る舞いまで見せるのだから初期の頃とは大違い。
ユリウス達はきっと誰よりもリオンの強さを信じている。そしてリオンの側もユリウス達のしつこさを理解している。そうした関係がアルカディア突入という大仕事を共にする仲間へと昇格させたのだろうね
本作にて最も成長したのはもしかしたらユリウス達だったのかもしれない

と、戦闘中はあれだけ見せ場が有って格好良さすら感じたのに、最終的にギャグ時空的な方法で助かる彼らって何なんだろう……(笑)

マリエに関しても認識を改めたくなるような振る舞いが目立ったな
最初の頃は自分だけが良ければそれで良いと言わんばかりにユリウス達を騙しオリヴィアを追い落とした。そのツケが後にマリエを大いに苦しめはしたけれど、基本的には芯の強さが彼女の魅力となっていた
けれど、前巻にてマリエの真実を知ってもユリウス達が自分を受け容れてくれて、更には自分の愚かさが兄を追い詰めていると知って
そうしてマリエは真の覚醒を迎えたね
聖女として戦場に立ち、逃げるべき場面でも逃げなかった。きっとその行動はマリエで無ければ出来ないもの。こういった行動はリオン譲りに思えるね


ただ、やはり最も言及したくなるのはオリヴィア達3人の婚約者か
アンジェリカもオリヴィアもノエルも今回の戦闘では王国軍を支える程の働きを見せた。それは他の人員では為し得ないもの

でも、彼女らの役割はリオンを前にした時にこそ最大限に発揮されて
これまでリオンがひた隠しにしてきた転生者の真実を知ってもリオンへの愛は変わらなかった。捻くれて現世へ戻ろうとしないリオンを前に彼の心情を代弁してみせた
それ程までの愛情を向けられればリオンは改めて自分があの世界に必要とされる人間だと察する事は出来るわけで

そうした前提が有ったからこそ、その後に出会う死者達の見送りも本気の反発が出来ない部分が有ったのかも知れない
ゲームの登場人物だとか酷い態度を取ったとか、そうした振る舞いが有ってもアンジェリカ達はリオンが大切であり生き返るべきだとの想いを変えなかった
それと同じようにルクシオンはリオンを生かしたいと考えているし、リオンによって死を迎えた者達もリオンは生きるべきだと語る
それ程までの感情を向けられればリオンに抵抗できる余地はないね。というか、あれだけ追い詰められないと本音を語れないリオンって本当に捻くれてるなぁと改めて感じてしまったが


現世に戻ったリオンを迎えたのは重すぎる地位だね
転生した頃は貧乏男爵家の次男坊だったのが今となっては国を背負う王様。一飛びにそうなったのではなく、一つずつ昇進してこの地位に就いたのだから凄い話
でも、リオンは背負うものが有ってこそ輝く人間のように思えるし、これはこれで逆に良いのかもね
まあ、それにしてもあの乙女ゲームが6作目まで存在するとか流石に無茶苦茶が過ぎるというかどこまでもあの世界はリオンに厳しすぎるとおもってしまうが(笑)


乙女ゲームを舞台にしながら骨太な冒険ファンタジーやロボットバトルを展開してみせた本作には驚かされつつも笑ってしまう場面が幾度も有った。そうした楽しみを提供してくれた本作が終わってしまう事は寂しくも有るが、終わりまで読めた点はとても満たされたものを感じてしまうね
本当に良い作品だったよ

あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です 3 感想

リオンやマリエの敵になりそうな人物が粗方居なくなった事もあってか2人の周囲はかなり安定したね
前巻の引きで怪しげな霧が登場したけど、それだって大して心配するような事態にならなかったし

他にも、まさかその勢いで第一作目と三作目のラスボスを封じてしまうとは思わなかったよ。本編では防ぐ手段も無いままに出現しリオンを大いに苦しめた強敵。それをあんなあっさりと無力化してしまうなんてね
このスピンオフでは転生者であるリオンとマリエが早い段階から協力しているお陰で厄介事が手早く封じられている印象を覚えるよ

その反面、不安定さを増していくのがオリヴィアか
本編においてもマリエの登場によって不遇へ追い遣られていたけど、同じく不遇に甘んじていたリオンが手を貸す事で彼女の境遇は改善されていた
けどこちらは元となったゲームと似た状況である筈なのに、何もかもが酷いとしか言いようがない境遇。

このスピンオフにおいても五馬鹿がやらかしているのは事実だけれど、本編程に馬鹿というわけではない。けれど、彼らはオリヴィアに夢中になるばかりで、庶民の彼女が貴族ばかりの学校で苦難を味わっている点に一切気付かない。フォローが無さ過ぎる状況は余計に彼女を苦境に追いやるものとなっているね
こうまでオリヴィアが悲惨だと元のゲームではどのようにして主人公としての行動を起こしていたのだろうとかと疑問に思ってしまうよ


オリヴィアの過酷な状況が更に加速したのが修学旅行か。本編ではそこまで印象に残るイベントではなかったけど、こちらではオリヴィアの庇護者となるべきユリウス達が参加していない為に彼女はより孤立無援に

無力なまま悪意に晒されるオリヴィアを見てリオンは改めて彼女に関わるかどうかの選択を突きつけられたわけだ
本編においては、オリヴィアがユリウスの庇護をどうやったって受けられないと判っていたから手を貸してやれた
でも現状では修学旅行に同行していないだけで学園に戻ればユリウス達との関係は再開する。その状態でリオンが彼女に手を差し伸べる事は果たして正しいのか?
まあ、そんなに難しい事を考えず動くのがリオンの良い所なのだけどね
好き勝手やっていたダリーとドナをこてんぱんにするシーンはスカッとしたよ

ただ、これによってリオンとオリヴィアの間には繋がりが生まれてしまったわけで
本編と同じように彼に恋してしまったオリヴィア。でも、本編と違ってこちらのリオンはマリエ以外を選ぶ事は無さそうなんだよな……

だってあのリオンが真っ当に雰囲気を作った上でマリエに愛を告げるなんて思わなかったし。リオンらしく何だかんだ言って逃げ続けるものかと…


リオンへの恋は叶わず、ユリウス達は自分を顧みる事はなく。そして襲い掛かる学友達の悪意
限界を超えたオリヴィアに取り憑く悪霊、ゲームの流れを完全に崩壊させるようなこれはホルファート王国に何を齎すのだろう……?

夏目漱石ファンタジア 感想

これは随分なトンデモ作品だなぁ(笑)
文豪が不思議能力を使って戦う作品であれば某有名コミックが存在するけど、こちらはまさかの肉弾戦。40に差し掛かった漱石が自らを鍛えて政府と武力闘争を開始するなんてトンデモ展開を思い付いた人間がこれまでに居るだろうかと野暮な事を考えてしまう(笑)
漱石の他にも文豪や医者が自らの肉体を使って戦闘を繰り広げるのだからとんでもない話。あまりにも有り得ないから作中で描かれる、時には失礼と思われる描写にも寛容となってしまいそうになるよ


事前設定の時点でトンデモ設定が数多く存在する作品だけど、物語が始まってからもとんでもない展開が
夏目漱石が爆死しかけて脳を取り出され冷凍保存されていた樋口一葉の体で生き返り女子校に教師として赴任する
改めてこんな頭の可怪しい設定を良くもまあ思い付いたものだ

ただ、土台となる設定そのものはトンデモでもその後に始まる物語そのものは何処か堅実さを感じさせるね
そもそもトンデモ作品を書きたいだけなら実在の人物を使う必要はないわけで。本作が現実に生きた夏目漱石を始めとした著名人を用いて描くのはそれぞれの作家や医者が掲げる思想の極みだね

樋口一葉の身体で蘇った漱石が尊重し続けるのは一葉が掲げた『則天去私』なる思想。一葉の意思は認めつつもこれを認められないという矛盾を抱え闘争に明け暮れた彼だから思考し続ける自由の信念
そういった感性が他の作家をも魅了するわけだ
その自由に基づく思想は一葉の身体になったとして遺憾なく発揮される点が新たな人生を手にした夏子の魅力となっているね


夏目漱石は生きる為に「私」という肉体を捨てた形となるわけだけど、似たものを「〇〇去私」の形で他の者達も掲げている様子が見られるね
ただ、それは多くの者が自らの意志で捨てているわけで。暗殺事件を経て救命の為に身体を捨てざるを得なかった漱石は特殊な形
けど、夏子の平素における口調が元の漱石における口調であるように、彼は身体を捨てても思想までは捨てていない

自由に基づく「個人主義」を最大限に尊重する夏子は他者に対しても自由意志を尊重している。だから薫が学校の都合で夢を諦めそうになった時には憤るが、彼女が夢を捨てずに嫁ぐなら意志を尊重して送り出す。芥川が鈴木の文学を押し付けられそうになれば、詰まらん評価に惑わされず己の文学を貫けと怒る
夏子の自由意志の守り手かのよう

だとしたら他者の意志を無視して操ろうとするブレインイーターを許せるわけがなくて。他者に意志を強要された機械人形として蘇ろうとする一葉の捨て様を認められるわけがなくて
表現の自由を尊重して樋口一葉を改めて弔った夏子の振る舞いは却って文豪としての尊厳を象徴していたような気がするよ


それにしても、文豪がその身一つで戦う作品の最後を飾る敵がジオングっぽい兵器とか本当にトンデモ作品である

男子禁制ゲーム世界で俺がやるべき唯一のこと4 百合の間に挟まる男として転生してしまいました 感想

本作は百合ゲーの世界を舞台にしていたり、燈色も百合を信奉する者として恋愛に積極的ではなかったりするけれど、燈色の周囲は普通に異性愛ハーレム状態でフラグが立っている娘もかなり多い
その意味ではラブコメ作品と言えるのだけど、何分に燈色自身にヒロインと進展したい等の欲求が希薄なせいで、一対一の状態で特定のヒロインと絆を育む描写は多くなかった。それだけにこの巻で行われたクリスとの逢瀬はかなり意外だったかも
フェアレディが作り出した幻想の精神世界から抜け出す為には燈色とクリスは協力しなければならない。それが二人を大きく変えるものとなったね

というか、ハーレムものだからこそ他のヒロインがあまり絡まない形でクリスとの仲が進展する描写が集中的に描かれるなんて予想外だったよ
そもそも前巻の時点では敵対し命を削るような戦いを演じた間柄。最終的にクリスの心変わりはさせられたものの、燈色への印象が良くなったわけでは決してない
また、クリス自身もミュールへの印象が変わったと言っても、これを期に積極的に接し方を変えられる程ではなかった。あの教会に助けに来たシーンだって前の彼女からは想像できない言葉を発しているとはいえ、全ての過去を無かった事にできる程の変化を手にしたわけじゃない。どうしたって妹に辛く当たった時間を経たクリスという人間性から逃げられない

それ故にフェアレディが作り出した外界と隔絶された空間はクリスに大きな影響を与えたようで
本来ならば、あの精神世界に囚われた段階で燈色やクリスを心配する他の人物達の動向が描かれたっておかしくない。けれど他の人物が描かれるとは裏を返せば燈色とクリスだけの空間が中断される意味にも繋がって
だからこそ、他ヒロイン達の様子は書き下ろし短編までお預けされるわけだ。あの場には燈色とクリスしかいない。2人だけの想いの醸成がフェアレディ打倒の鍵となるわけだ

それにしても燈色はフェアレディを倒す為とはいえ、よくもまあクリスと恋仲になろうと思えたものだね
百合が大好きで百合の可能性がある娘に手を出すなんてまるっきり考えられないタイプ。なのにクリスには手を出した。それは回り回ってはクリスとミュール、アステミルとラピスの仲を守る為なんだろうけど
でも、容易に崩せない程のフラグを立てている時点で彼の望みは果たせない気しかしないなぁ(笑)


クリスも燈色もフェアレディを倒す為だけの協定と割り切っていた筈。だというのに1カ月程度の時間が毒牙のようにクリスを蝕んでいたというのは何とも言えない話
前巻で敵対していた時や今回の序盤におけるクリスの態度からして、氷の如く誰にも心の温かみを見せる事の無い人物に見えていた。だからこそ燈色もクリスに対して期間限定の精神世界から逃げられれば終わる恋人関係を提案できた

だというのに1ヵ月経ってクリスに起こったのは愛に縋る少女への変化。愛は彼女を強くするのではなく弱くしてしまった。
孤独に生きてきた彼女がようやく手にした不変の世界での恋人。それはミュールとの仲を辛うじての形でしか修復できなかったからこそ陥ってしまった心の罠

ああまで弱ってしまったクリスを見れば燈色とて揺らいでしまうと思いきや、ここで己を「百合を護る者」として定義し続け精神を喰われなかったのは流石。いや、ちょっとは手を出したっぽいからこっちもこっちで辛うじてという感じなんだろうけど

それでも燈色がクリスに対し信じ続けたのは彼女のヒーロー性か。というよりもミュールが信じたクリスという姉の姿か
クリスにもかつて妹から信じられていた記憶が有る。それを燈色によって刺激されたなら心が弱ってしまった状態だろうと戦場に立てる。燈色の隣に並び立てる

ラスト、彼女にとって幸福な世界が壊れると、幸福な記憶が消えてしまうと判っていても世界の崩壊を望んだ彼女の美しさには尊さを感じてしまったよ……


と、ここで燈色には拒否感の強い経験が消えるなら彼にとってめでたしめでたしとなる筈だけど、精神世界からの脱出にあのアルスハリヤが関わっている時点で嫌な(もしくは愉快な)予感しかしないなぁ(笑)

ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編11 感想

休暇期間ならいざ知らず。通常授業期間中にこのように緩やかなテンションの話が展開されると思わなかったなぁ。一応ゲーム形式であるものの勝利の価値がとても低い交流会。それは嵐が来る前の静けさであるようにも、激戦へ向かう最後の休息であるようにも思えたよ


今回の綾小路は普段接点のない人物とばかり接していたね。そもそも同じクラスの者との会話がほぼ発生せず、彼女である軽井沢との会話も最低限だった
代わりに会話の機会が増えたのがAクラスか

前回の特別試験によりAクラスでは坂柳が大切な友人を失い、橋本が離反するに至った。中心軸に動揺が走ったAクラスはこれまでになく不安定
この巻で描かれた様々は特別試験がクラスをどれだけ変えてしまったかを確認する工程でありつつ、同時に学年末試験に向けた準備段階のように思えたよ

最も目立つ動きをしていたのが橋本かな?
これまでは腰巾着もしくは参謀として坂柳に付き従っていたが特別試験では坂柳を裏切った。それによって彼は立場が悪くなったわけだけど、むしろ危うくなった状況をこそ利用して綾小路を勧誘している
終盤に明かされた賭けの内容から察せられるに、破れかぶれに裏切ったのではなく彼も一種の賭けをしているのだろうね。その賭けがAクラスだけでなく学年全体を揺り動かそうとしているのだからとんでもない話だ

もう一つの賭けとして描かれたのは綾小路と南雲の勝負かな
ただ、こちらは賭けとも勝負とも言い難い、本当にただのゲームとしか言い様がないもの。遊びの延長みたいな交流会で3敗したら負けだなんて緊張感が生まれる筈もない
その意味では決着を付けるというよりも南雲が綾小路との因縁にピリオドを付ける為の対決だったのかもしれないね。特に終盤で明かされた彼の心情から察せられるように、別の思惑で勝負をしたかのような印象すら受ける
南雲は傑出した存在に成れなかった。そして綾小路には勝てない、そう己に再認識させる為の賭けだったのかもしれない


ヒロイン面で今回スポットが当たったのはやはり山村になるのかな?
最近株を上げている一之瀬は残念ながらお休み。軽井沢を始めとして堀北クラスの面々とあまり関わりが無かったからそちらの進展も薄く
代わりに目立つ関わり方をしたのが山村になるのかな

一時は坂柳の命令で綾小路を探っていた事も有る山村。けれど、孤独性を象徴するような彼女は同じく孤独性を宿す綾小路と似通った部分があって
それが気配の薄い山村を綾小路だけが平然と認識できる理由にも繋がっていたりするのかな
ただ、山村は孤独に身を染めていても孤独を愛しているという程ではないね。だから知らず知らずの内に坂柳との繋がりを求めていて、それが特別試験で崩れてしまった事で彼女も不安定になった

この事態は他クラスに属する生徒であれば願ってもない付け入る隙。だというのに、彼女らの事情にもアシストしてしまう綾小路は誰よりも大局的に学年を見ているよ


大きなトラブルも無く穏やかに終わった交流会。けれどラストには驚きの展開が待っていたね

順当に過ごしていけばいずれ勝者も綾小路と戦うべき者も現れる。それでも坂柳と龍園はそれに至る場のセッティングを早急に望んだ形か
どちらに転んでも学年全体が大きく揺れ動く。果たしてどちらが生き残るのか、またこの賭けに含まれない一之瀬や掘北はどう動くのか
唯でさえ波乱含みとなりそうな学年末試験、今から大荒れとなる想像しか出来ないよ

スパイ教室 短編集05 『焔』より愛をこめて 感想

作者がコメントで述べているように『スパイ教室』の前日譚であり、クラウスが如何にして今の姿になったかを明かす物語となっているね
クラウスの成長を描くという意味では確かに教室と呼べるものでは有るけれど、どうしたって『焰』は家族と呼びたくなるし、だからこそ『焰』から派生した『灯』もまた一つの家族だと感じられるものだと再確認できたよ


本作を読んで最も意外だったのは初期のクラウスがやんちゃ坊主というか全力で野生児をしていた点かなぁ
そりゃ来歴を考えれば当たり前なんだけど、現在の泰然とした姿勢を当たり前のものとしてみてしまうとかなり意外性を感じてしまうというか

また、後に本編で活躍する事になる人物が登場したり言及が有ったりという点はちょっとしたサービス要素として嬉しくなるね


最初の2年間はまともにコミュニケーションも取れなかった。戦闘能力は高くても人間としてあまりに不足していた。けれど、『焰』の先輩方に育てられて世界最強のスパイへと成長した
それは一息に成長が描かれるのではなく、幾つものエピソードを通して少しずつ成長する彼の姿が描かれたからこそ、そこにはどこまでも『焰』の愛を感じてしまう

でも、それは各話タイトルに現れているように表の物語であるという点が少し物哀しいね…
クラウスは『焰』の愛情を一身に受けるようにして成長した。でもその裏ではフェロニカは一人で世界の暗部を背負っていたし、ギードは裏切りへと突き進んだ。ルーカスとヴィレだって暗部に関わろうとしていたし、きっと描かれていないだけでゲルデやハイジにも何かしら裏は存在するわけで
クラウスはそれらを知らないままに『焰』の崩壊に立ち会った。何も明かされて居なかった事は彼が信頼されていなかったかのように感じてしまいそうになるが、一方でギリギリの瞬間まで彼を表側に留めておきたかったかのように感じられる

でも、それは暗部に立ち入らせないとするものではないから、クラウスが本当の意味で残酷な決断をする為の覚悟を欲した時に背を押す力となっていたね
だからこそ、クラウスを殺せる筈だった銀蝉は失敗し、彼は極限状態から生き残れた。フェロニカが遺した言葉が彼をスパイの世界に留め置かせた


『焰』から受け取った心の炎を分け与えて新たに作り上げた『灯』
それがどのような経緯で生まれたか、クラウスがあの場所にどのような感情を持っているか。それを知れたという意味ではとても良い短編集でしたよ