タカツテムの徒然雑記

主にアニメや漫画・ライトノベルの感想を投稿するブログとなっています。

魔王都市: -血塗られた聖剣と致命の亡霊- (2) 感想

混沌を極める魔王都市での事件を通して相棒として信頼を深めたアルサリサとキード。続く2巻ではまた違った角度から二人の関係を描いているね


1巻では二人共に他人の協力をあまり得ない形で型破りな捜査をしていたし、勇者と魔王の後継者を目指しているなんて破天荒な目標が有るものだからついつい忘れていたけど、そもそもこの二人って組織に属する人間なんだっけ
キードは魔王都市に駐在する派出騎士で現場方の人間。いわば叩き上げ
アルサリサは不滅工房本部から派遣された人間。いわばエリート
だから相棒に見えても二人の立場は大きく違って、キードはアルサリサの命令に従う関係が本来。1巻では二人だけで脱法的な捜査をしていたから気づかなかったそれは不滅工房本部からアルサリサを監督する調整官がやって来て明確になってくる

二人は組織に属する人間としてルールに則った動きが求められる。法に基づいた正義にこだわるアルサリサには耐えられるそれは現場主義的なキードには受け容れられない
その状態で現場方の派出騎士が殺される事件が発生すれば尚の事

二人に生じる軋轢の象徴となる人物が本部からやってきたフォレークとなるわけだけど、この人物は中々の曲者だね
フォレークが意識しているのはとても政治的。真犯人を捕らえられるかという点よりも、犯人を捕らえる事は何を意味するかを考えている
だから実際の犯人であるかに関わらず政治的影響が少ないはぐれ魔族に罪を着せようとする

これは現場に居てはぐれ魔族を従えるギードには受け容れられない方針だね。だから調整官に従って仁義から外れるよりも嘘を吐いて仁義を通そうとする
でも、法や正義を意識するアルサリサは規則の中でフォレークに抗おうとするからギードと反目する。相棒として成り立つと思えた二人が道を違えるしか無くなるわけだ

1巻で二人は凸凹な相棒だと感じさせながらも、その凸凹さが場面場面で主従を入れ替えさせ事件の真相に至らせた
裏を返せばアルサリサとキードは一人だと凸か凹にしか成れない。反目したままでは事件の真相に至れないわけだ
二人が別々に行動している辺りの展開には目を覆いたくなるような拙さが有ったよ

それだけに混沌の中で再会して硬軟織り交ぜる形で互いの正義と仁義を通す形になってからの展開には爽快感を覚えてしまうね
二人はまだまだ未熟で魔王都市や不滅工房全体に名乗りを上げられる程の人物ではない。それでも己が掲げた正義や仁義に則って行動し助けを求める声に応えてみせた。それは少なからず無名から抜け出した瞬間のように思えたな

…と思えただけにラストの急展開には驚かされてしまったり
規則に従いつつも規則の反則的運用をしたアルサリサに罰が下されるかと思いきや、まさかキードが罰されるなんてね
フォレークにすればアルサリサよりも手を出しやすかった相手。でも、実態としては魔王の後継者に名乗りあげている人間でも有って
次巻はキードを中心に魔王都市がまたもや混沌に飲み込まれそうだ


そういや、『案内人』の正体が気になるけど一体どのような人物なんだろう
なんか発言の傾向がやたらとキードを思わせるものになってるんだけど、もしかして『棺桶通り』でキードと共に育った人間だったりするんだろうか?

双子まとめて『カノジョ』にしない? 感想

一卵性の双子だと好みのタイプが似ると言うけれど、それで同じ人物と同時に付き合う話までよく聞く訳ではないのは、やはり常識的にそれを二股としか言い様がないからで

咲人の前に現れたのは光莉と千影の双子姉妹。咲人としても別に二人と同時に付き合いたい訳ではなかっただけに、運命の悪戯によって引き寄せられた三人が先述した点を踏まえつつも三人で恋人になる工程が丁寧に描かれていたように感じられたよ

印象的だったのは咲人は当初、宇佐美千影が双子であると知らなかった点かな
学校で出逢った真面目で努力家な千影、ゲームセンターで出逢った一緒に居て楽しい光莉。双子だけど異なる要素を持つ二人と別の場所で出逢い、それぞれを好きになった咲人だから相手が双子と知ってもそれぞれへの好きを崩さない

一方の千影と光莉だって、どちらか一人だけと付き合うなんて状況は許容できない
常識的には許されない二股交際。これに対する光莉の弁論はすらすら展開されるから反対していた筈の咲人も次第に翻意させられる
誠実さと秘密厳守に拠って成立する禁断の関係。けれど、当の三人は禁断さを意識するよりも三人で一緒にいる事を自分達で認められた嬉しさの方が大きそうだったのは、やはり好き合う同士だったのだと感じられたよ


そうして付き合う中で見えてくるのは三人それぞれの魅力かな
ここでヒロインである光莉と千影の魅力が深掘りされるのはまあ、こういうライトノベルであれば当たり前と言えるのだろうけど、同時に咲人の魅力も深掘りされていく構成は特徴的と言えるかもしれない

成績としては光莉も千影もトップクラス。なら付き合う咲人もそれに見合うだけの人間である方が釣り合いが取れていると言える
だというのに本人はモブを自称し目立たないようにしている。その理由は何なのか?

その答えが明かされた辺りの展開には色々と思う処は有るのだけど、それと同時に『普通』を一旦目指してから『ヒーロー』を志した人間だからこそ、光莉と千影の望みを叶える形で双子をまとめてカノジョに出来たのだろうと思えたよ
そして、あのような経験をした咲人だから双子をまとめてカノジョにしてしまってもこれから二人を守っていける人間に成れるのだろうとも思えるね

弱キャラ友崎くん (Lv.11) 感想

随分待たされた気がする新刊
誕生日パーティで家族からのビデオレターなんて感動の涙が巻き起こるのが普通な場面。だというのに日南が見せた反応は拒絶に等しい反発だなんて…

日南はパーソナルスペースに不用意に踏み込まれる事を嫌がるようなタイプだったからこそ、優鈴達がしたビデオレターはちょっと踏み込んだ行為で
だとしても、あの日南が自分をどう思われるか考えられない程の反発をするなんて想像もしなかったなぁ…

交友関係を壊す程の破滅的な自傷だから、その傷に触れるなんて容易い行いではなくて。あのメンバーの中では最も日南の心に近づいていた友崎ですら日南に掛ける言葉は慎重さが求められる
ただ、「これ以上なにも、話す気はないよ」と言いつつ友崎の前から逃げようとはしなかった振る舞いからは、友崎の言葉に期待するものがあったのだろうと感じられる。それだけに日南を信じた言葉を投げてもそれが届かなかった友崎の無念も見えてしまうが

誕生日パーティで日南が見せた空虚さは輝かしい日南を見てきた者達には理解できない領域。日南への見方を変えられた友崎ですら例外ではなかったという点は彼が思う程には日南の心踏み込めていなかった事実を示しているね


日南を取り巻く日常は壊れてしまった。でもそれで本当に何も無くなってしまう程に日南がこれまで築いてきたものはヤワじゃなくて
クラスが分かれてしまっても、日南の心に何が起きたか判らなくても。それでも日南の為に何か出来るのではないかと集まって話す大阪旅行メンバーは温かみに満ちているね
ただ、それで何か突破口が見えるわけが無い辺りに、結局は彼らとて日南の事を何も知らないのだと理解させられるものになってしまうのだけど

でも、それで諦めたりしないのが友崎なわけで
日南に近づくため思いもしない手段だって平然と採る…と判ってはいたけど、まさか待ち伏せした上で妹さんに話しかけるとは。あれ、共通の話題でどうにかなったけど、普通に不審者の行動だよ(笑)

それでも繋がれた日南へ通じる道。それがまさかあのような展開になるなんて……
友崎は日南の心にどう踏み込もうかずっと考えてきた人間。でも時には友崎以上に考えていたのが風香と言えるわけで
だとしても、遥の少ない言葉から日南の、それどころか日南家の根源にすら至ってしまう彼女の業は凄まじいものが有るね…
風香が見出した日南の根源は確かに心を閉ざした日南の心を解きほぐす鍵となるかもしれない。でも、それが人の心に土足で踏み込む行為である点は否定しようがなくて
自分を責める風香の様子は堪えるものがあったよ…

それだけにその後に描かれたゲーム大会のエピソードには色々と心休まるものがあったな
この巻は日南の謎に迫る為にメンタルを削る展開が多かったから、純粋にゲームを楽しむ様子が描かれたあの辺は気軽に読めたよ。風香の珍しいラブコメ発現も有ったしね(笑)


日南の失った何かを探して右往左往してようやく辿り着いた暗闇。日南葵によって語られる過去はこれまでの彼女のイメージとかけ離れた要素を持つもの
母親から全肯定される日々という点は今に通じる何かを感じさせるけど、渚の死によって崩れ去った直後の姿と現在のパーフェクトヒロインとなった姿は重ならない
でも、その違和感がその時からどれだけの努力を彼女にさせ、今の姿を作り上げたのかという点も見えてくる。

けれど、そうまでして手にした『何か』を信じられないなら日南は行き止まるしかない
そこで友崎が掛けた言葉がいいね。聞き方に拠っては酷い自惚れに聞こえる発言。けれど、日南と切磋琢磨しアタファミにおいては日南を上回る強キャラとして日南に無い要素を持つ友崎だからこそ力を持つ言葉

だというのに、あのような展開になってしまうのか……
あの日南の勝利って本当に何の意味もないのが虚しいんだよね。完璧な対策をして友崎に勝てるようになった。だけど、それが何だというのだろう?
nanashiに憧れて彼のように成りたいと研究を重ねたのに、それを完全に捨てて勝利だけを得て。その勝利だって、友崎を上回ったという価値は手に入らず、精々が友崎の言葉を跳ね除けるという程度の意味しかない。本当に意味の薄い勝利
誕生日パーティ以上の拒絶がそこにあったわけだ


友崎と日南による人生攻略が終わるに留まらず、繋がりすら途切れてしまった状態は友崎の心を今度こそ折ってしまったようで
自分は日南の為に出来る事が有るのではないかと思えていたのに、そこにあったのは完全な拒絶と敗北

そんな友崎を再起させるのはやっぱり風香の役目なんだねぇ……
風香だって友崎が日南の為に心砕く様子に思う処なんて納得できないものも有るだろうに、それでも友崎が日南に関わり続けられるようにしている
そこには友崎の望みを叶えたい彼女としての願いと日南の動機を解き明かし物語を完成させたいという小説家の業が同居しているね
だから友崎の行動は風香の進む理由になって、だから風香の行動は友崎の進む力になる

そうして再び始まるのは魔王日南葵を討伐する物語。人生をクソゲーと吐き捨てた彼女に「人生とは神ゲー」であると諭す為の武器となる物語を皆で探す冒険
遂に終幕へと近づいた本作は読者にどのような物語を、そして神ゲーを見せてくれるのだろうね?

記憶喪失の俺には、三人カノジョがいるらしい2 感想

第1巻にて関係性を終わらせようとした筈なのに現状維持として続いてしまった三股関係。多少不本意でも人生をやり直している勇紀にとって救いとなっているのも事実
前の真田勇紀という人間を消す為に彼がした行動は恋人を標榜する彼女らには意味を成さなかったわけだ。代わりに学校での立ち位置を完全に失ってしまったわけだが

勇紀が自分の立ち場を失ってしまったのは完全に狙ってやった事なのだから仕方ないけど、それと同じくして夢咲も立ち場を失ってしまったようで
彼女の場合は虐めの件含め自業自得感は有るものの、ちょっとした拍子で積み上げてきたものが崩れてしまう学校空間の怖さを体現しても居るね

それも有ってか、そのようなクラスに在籍しつつモデルという居場所を持つ為か浮世離れした紗季の存在は余計に目立つのだけど
元々三大派閥なんて呼ばれるくらいに目立つ少女。自身は派閥なんて全く形成していないけど、誰も口を挟めない行動力の強さは存在そのものが派閥であるかのよう
立ち場を無くした勇紀とも夢咲ともクラスの中で平然と接せられる彼女は空気などまるで知らないかの如く振る舞うね


学校空間での勇紀の立ち位置が好転しないなら、問題となってくるのは彼自身。というよりも記憶喪失による前の彼と今の彼の分断
前の勇紀によって三股が始まっているからこそ一度はそれを壊そうとしたというのに現状維持となってしまった関係が勇紀に思い知らせるのは自身に向けられる感情の虚しさ

果たして3人の彼女は今の勇紀を見ているのか、前の勇紀を見ているのか。曖昧な中でそれでも頼りとなったのは紗季の向ける感情だね
彼女だけは言葉だけじゃなく態度でも今の勇紀を好いていると告げてくれる。それは今の勇紀にとって縋れるものであるけれど、まだ触れ合った時間も質も少ない筈の今の勇紀を何故紗季が好いているのかという点を問題として浮き上がらせてもしまう
不安定な勇紀を彼女が肯定すればするほど紗季の歪さが強調される

だから勇紀としては紗季以外の拠り所を欲したと言えるのかな
訓練合宿でも彼は居場所がない夢咲を助ける為とはいえ余計にクラスの中で味方になりえる相手を失ってしまった。そして紗季すら頼れないなら明日香を拠り所に選ぶのは自然な話だったのかもしれない
でも、それは拠り所と云うには綺麗な表現で実態は自分を無条件に受け入れてくれて自分自身もそれを負担に思わない関係。だから怪しんでいなかった頃の紗季には縋れたわけだし
そんな身勝手な感情を、他者に理解されるわけがないと意固地になる激情を受け止められる程に明日香は今の勇紀を見てやれていなくて

勇紀が必要としたのは今の自分を受け入れてくれる相手。でも医者が語っていたように勇紀自身が相手を受け入れる努力も必要
ひなは足りなかったその辺を埋めてくれたね。ひなは別に前の勇紀がそれ程好きじゃないという訳では無いが、あの虐め事件を通して今の勇紀への感謝がある。そして前の勇紀と過ごした時間が最も短いから今の勇紀を色眼鏡なしで見られる
そんな彼女の言葉を受けたからこそ、勇紀の側も彼女の願いを尊重してやれるようになったのだろうね

今と前の差によって生じる不快感への突破口が見えたなら傷つけてしまった明日香との向き合い方も見えてくる
まさかあの勇紀が自ら記憶を取り戻したいだなんて思うなんてね

そうして思い出されたのは勇紀と明日香が恋人になった日の物語。あの時間だけを思い出せるのは少々都合の良さを感じないでもないけれど、それなりの文量を用いて描かれたそれは勇紀にとっても明日香にとってもあの時間がとても大切なもので二人にとって再会と始まりが詰まった瞬間なのだと判るね

記憶と共に失ってしまっていた大切なそれを取り戻せたなら、今の勇紀でも自分自身や明日香との向き合い方には何の問題も無くなるわけで
前の勇紀を取り戻そうとしていた明日香だけでなく、自分自身を真田勇紀として受け入れられた彼は大きな障害を乗り越えられた気がするよ

一つの壁が越えられたなら、見えてくるのは次の壁。いつの間にか死んでいた母親、赤の他人の父親、三股の件
けれど、最も大きな衝撃を伴って齎された新たなる壁は予想外のものだったね。紗季はこれまで今の勇紀の味方と思えていたけど、実態は最大の敵なのか……

86―エイティシックス―Ep.13 ─ディア・ハンター─ 感想

そろそろ本格的に登場人物が多くなり過ぎてきて、誰が誰だか判らない瞬間が増えてしまったよ……
冒頭にそれなりの人数が掲載された登場人物紹介があるというのに、それでカバーされていない人物がまだまだ居るって色々な意味で凄い事だと思いますよ


この巻ではこれまでの全てを引っ繰り返すような様々が立て続けに起こるのだけど、それが過度に悲観した調子ではなくあくまでも淡々と描かれる様はどこか戦時ドキュメンタリーめいているね
だからか、極限なまでに悲惨な状況でありつつもそれに下手な絶望すること無く読み進められると云うか…。それでも悲惨である点は変わらないから何度も頭を抱えたくなるんだけどね……


ギアーデ連邦の勢力圏は第二次大攻勢によって見るも無惨な程に減ってしまった。それによって不穏な足音は聞こえたものの、これまでを生き抜いてきた連邦なら耐えられる、生存圏を奪還できると前巻までは思っていたのだけどね…
まさか避難民の増加に拠る生活環境の悪化や<仔鹿>の出現に伴う人間不信がこうまでも悪い方悪い方に動くなんて……

本作では絶死の戦場を生き抜く為に人間が極限の業に手を染めてしまう様が度々描かれた。でも、それは基本的に為政者の判断によるものであり民間人は為政者が作った制度が形作った流れに沿って恩恵を受け生きるだけだったように思う
特に精神性が酷い集団として描かれてきたのは共和国で、それは舞台装置的にエイティシックスを生み出した集団なのだから、もはやそういうものなのだと思っていた
けれど、この巻で連邦に起こったのは国家規模の疑心暗鬼。極限状態が続き過ぎたが為に悪者を安易に求めた結果の相互不信
ギオンという絶対的な敵が眼の前に存在するというのに、一般市民にとって戦場なんて遠くて見えない場所だから、近くて見える場所に敵を求める。近くの敵を排斥する事で戦っているつもりになる。そうして自分は正しい側にいるのだと思い込む

この巻で連邦市民に起こった事は国という存在が終わりゆく顛末に等しいね
第二次大攻勢によって勢力圏を減らした流れからして、てっきりレギオンへの防衛力を減らす中で滅亡に近づいていくのかと予想していたけど、それよりも前に精神性が死ぬというのか…
高潔な精神が地に堕ちた共和国の成り立ちを見ているかのようだったよ……

でも、逆に言えばそれこそ共和国という先例が有るんだよね
自分達の安全を優先するあまり自分達でない者をエイティシックスとして戦場に押し込めた共和国という存在を知っている。そして共和国の生き残りやエイティシックスは堕ちそうな連邦の一部として戦っている
ヘンリのように連邦が間違い始めていると気付ける者は間違ったままに進んだ先に何が有るかを知っている。なら連邦も悪意に陥らず踏み留まれるかもしれない
この時はそう思っていたんだけどね……


悪意のような蔑視が広がれば、その渦中に居る者とて影響を受けずに居られない。その最たる者がシンとなりましたか…
只でさえ、レーナから理不尽に引き離された状況且つ戦況も思わしくない。彼のストレスはマッハ。
多少のガス抜きが有ったとしても、悪意に晒され続ける彼を癒やしてくれるものなんて何もない

特にシンはエイティシックスとして、絶死の戦場を無理にでも生き抜いてしまったから。そして楽に生きられる道が用意されようとしていたのに再び生きる為に戦場に戻った人間だから
戦わざるを得ない局面でいつまでも戦わない者を理解出来ない。それは前巻や前々巻にて示された要素。そんな理解できない者達が必死に戦おうとする『自分達』の邪魔をするというのなら
シンにとってそれらは害悪でしか無い

そうして連邦のようにシンが堕ちかけてしまった瞬間に投げかけられたのは、いつかの連邦と共和国の境目で掬い上げてくれた彼女の言葉
もう簡単に会えないと諦めそうになっていたレーナからの言葉にシンが己を取り戻す様子は本当に良いね。この二人はやはり互いに相手を想い合う事で何のために戦うのか、何のために戦場から帰ってくるのかという点を明確にしているように思えるよ


ギオンの攻勢とは別方面で展開されるのがユート率いる<仔鹿>達の逃避行だね。いや、厳密には逃避行とは少し違って残り少ない寿命の中で何を成し遂げるかという話なのだけど

人間爆弾という絶句せざるを得ない禁忌の研究。実験に携わった者への嫌悪はどうしても湧いてしまうが、それはそれとして時限爆弾になってしまった彼女らはどのように残りの時間を生きるべきか
キキが嘆いたように先に自殺していれば全ては済んだ話となったのかもしれない。でも、地獄でも救いがなくても生き抜くと決めたのがエイティシックスだから、<仔鹿>であろうと自分の命を進んで諦めるのが正しいなんて言えるわけがなくて
彼女らの悲嘆を理解した上で帰郷の旅に同行したユートは本当に立派な人間ですよ

ただ、ユートの立派さが目立つ程に、チトリと関わりが有りながら会いに行けないダスティンの不甲斐なさも強調されてしまうというのが苦しいね…
そもそもユート達に追いつける見込みのない彼が今の状況で軍を脱走するなんて馬鹿げた話。自分の立ち場やアンジュの想いを守ろうとすればダスティンは思い切った行動を選べない

それが間違いのない選択なのだとダスティンが信じられれば何も迷いなんて後悔なんて生まれなかった。でも、助けたいと思った相手を見捨てたという自覚がダスティンにそれを信じさせてくれず、そうしてダスティンが己の選択を信じられないなら、誘導したアンジュも自分を信じられるわけがなくて
揃って袋小路へ陥っていく二人の様子は見ていられなかったよ……


時を追う毎に悪化していく何もかも。それでも、渦中で足掻くのを辞めず失ってはならないものを確かにする者達も居るわけで
悪意の只中で堕ちかけていたがレーナの言葉で己を取り戻したように、何人もの少女を連れて脱走した筈なのに故郷へ届かなくても歩み続けたように、先導してくれた憲兵が死んでしまっても小さな子供の手を引いてまだ歩いたように、愛した人が叶えたかった民主主義が潰えても子の言葉を裏切れないと気付いたように、救えない誰かが居たとしてもアンジュだけは悲しませないように

どん底で希望なんて見えない状況だろうと生きる為に戦い続けるなら得られる何かが有る。人が人に向けてしまう感情に悪意ではなく愛を含められれば好転する何かがある
そうすれば帰ってくる筈の無かったダスティンだけでなくヘンリやカナンがひょっこり生還するなんて奇跡に出会えるかもしれない

…と思えた終盤だっただけに、リトの死から始まる急転直下は何もかも理解できなかったよ……
いつかの共和国でのようにエイティシックスが憎しみの対象となるのはまだ判る。理不尽な悪意を向けられるくらいに彼らは自分の力で戦えて、そして生きる事が出来るから
だとしても、あの連邦でエイティシックスを始めとした軍人の殆どを戦場に押し込める非道がまかり通るなんて本当に想像すらしなかったよ……

本シリーズ序盤にて共和国がエイティシックスにした悪行はその前提に関する描写が不足していた事も有り、こんな遣り方は不可能で無茶が過ぎると思っていた
だからこそ、エイティシックスが逃れ着いた民主主義的な連邦が共和国の対比として成立していると感じられた。というのに、その連邦が少しずつ少しずつ共和国の悪行をなぞらえていたなんて誰が想像しただろうか

共和国でエイティシックスが86区に押し込められた時とは異なる要素を持つのは確か。でもそれが何の意味があろうかと思える程に状況はあの時と瓜二つ
ここからレギオンと対峙しつつ、人の悪意にも抗う方法なんて果たして存在するのだろうか……

2023年の総括

今年もそろそろ終わりという事で2023年に鑑賞した作品について纏めようかと

アニメ部門

今年視聴した作品

視聴作品は以下の通り。2023年秋スタートの『薬屋のひとりごと』と『葬送のフリーレン』は2024年冬でも放送が続く為にラインナップから外しています

元々視聴数は多くないタイプなのですが、こう見ると秋シーズンの少なさは際立ってしまう印象。上述の放送継続中の2作を加えればまだマシな数には成るのですが…

大いに楽しんだ作品

『お兄ちゃんはおしまい!』

キワモノ作品としか思えない設定と導入なのに、丁寧に作られた描写の数々が本作を良作だと感じさせてくれますね
特に性転換前は関係が破綻していた兄のまひろと妹のみはりが、姉のみはりと妹のまひろという関係性に成る事により兄妹仲を回復させるという展開がかつて見た事がなく、これからも見る事はないだろうと思える独特の空気感を生んでいましたね

鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』

『刀鍛冶の里編』って言ってしまえばシーズンの殆どを一つの里で上弦の鬼と戦っているだけの話なのですが、ストレートに作品の質が高い為に飽きさせないし魅了してくれる内容になっていますね
特にこのシーズンにてメイン級の出番を得た時透無一郎の心情変化には目を見張るものがありました

機動戦士ガンダム 水星の魔女』

これまでのTV放送ガンダム作品に比べれば話数は少ないし、舞台の半分程度が学園内に終止している珍しい傾向の作品なのですが、舞台を過度に広げず間延びしない程度の話数に留めており、まるでジェットコースターのようなストーリー展開になっている為に毎週楽しんで視聴していた覚えがあります。
また、家族や仲間の死という絶望の呪いから、許される筈が無い者を許す祝福の物語へと終着する展開も気持ち良く見れました

進撃の巨人 The Final Season 完結編』

もはや何を語るまでもない名作ですね。アニメとして放送された期間も長ければ、「The Final Season」と銘打ってから最終話に辿り着くのも長かった作品ですが、永く付き合ってきた分だけ最終話を見た際の感動はなかなか味わえないものと成りました。
また、作中で扱われた難しいテーマに最後の一瞬まで真摯に向き合って作られた内容にも感服するばかりです

マンガ部門

今年に読んだマンガ数は以下の通り。「マンガ」と表示されている列が各月で読んだマンガの数ですね
6月の冊数が極端に少ないのは、余暇時間の使い方に少々迷いが生じていた頃ですかね……

今年から読み始めたお薦め作品

『どうせ泣くなら恋がいい』

前作『はやくしたいふたり』が自分的にかなりの当たり作品となっただけに日下あき先生の新作には期待した状態で読み始めたのですが、その期待に見事応える作品となりました
不登校から頑張って復帰し高校へ通おうとする帆高、それを寡黙ながらに優しく見守ってくれる湊。沢山の勇気と優しさが交わされる本作の内容には毎度感じ入ります。
それでいながら笑えるコメディ要素を随所に入れてくれるのだから堪らないですよ

『薫る花は凛と咲く』

第1巻発表は2022年なので、何故去年の間に出逢えなかったのかと疑問に思ってしまう程の良作
千鳥と桔梗、いがみ合う2つの高校に在籍する凛太郎と薫子が美味しいケーキをきっかけに交流を始め、その環が広がっていく様子が描かれる本作。
最初に有ったのは確かに嫌悪に近い対立だった筈なのに誰も彼も優しさと思い遣りを持っているから少しずつその状況が変わっていく
無限の優しさの輪が心に沁みる本当に良い作品ですよ

『IDOL×IDOL STORY!』

昨今では珍しくなくなったサバイバルオーディションを題材にした本作。登場人物はアイドルを目指すのだから、それまではごく普通の女の子という立ち場が多いのですが、主人公の美海は一度アイドルチームを辞めた身
それでももう一度アイドルをやりたいと似たような境遇の依吹と「今度こそ!」という想いでサバイバルオーディションに挑む様子は熱い気持ちにさせてくれるんですよね
また、他の候補者に関してもきちんと深掘りをした上で担当回を描いてくれるので感情移入もし易い構成になっていますね

大いに楽しんだ作品

『ガールクラッシュ』6巻

個人的にもっと流行れ!と第1巻の頃から思っている作品
K-POPアイドルを目指し日夜努力する天花の前にそびえるのは簡単に乗り越えられない壁ばかり。この6巻では天花の原動力である晴海への気持ちが色褪せるという信じられない事態が出現。それでも負けるもんかと歯を食いしばる天花の前に現れたシオンが真逆の価値観を提示した点は彼女にとって転機となる瞬間だったと判るだけに、この巻もそしてこれからも天花がどのように花開いていくか期待感が山のように膨らむ内容でしたよ

『凛子ちゃんとひもすがら』4巻

小学生が成人男性をヒモにするというトンデモ展開から始まった作品の最終巻
凛子と春乃の関係性はどう考えても間違っているのだけど、2人は此処に到るまでの人生が苦しい事ばかりで間違いだらけの空虚な同居生活を肯定しないと心が壊れそうだった
逆に言えば、2人がそこから抜け出せる時は心がある程度強くなった時だけで。ハッピーエンドに辿り着いた2人の様子があまりに尊くて尊くて……

3月のライオン』17巻

永きに亘るライバル、桐山と二階堂が激突する対局模様が描かれる今巻
2人がそこまでに培った実力と想いをこれでもかとぶつける様子にはどうしようもない程に感動してしまうんですよね
特に二階堂が桐山が二階堂相手だから出来る打ち方から、彼の心境どころか人生の変化を察する辺りの描写からは2人の信頼関係を強く感じてしまって…
そんな素晴らしい対局が描かれる一方で進化を遂げたあかりのお料理地獄にも別の意味で感動してしまうんですけどね(笑)

ライトノベル部門

今年読んだライトノベルは42冊程度。マンガ部門で上げた画像の「本」に含まれる項目ですね
てっきり週に一冊程度のペースで読んでいるつもりだったんですけど、途中途中に読んだクリスティ作品に思った以上に時間を取られた形でしょうか

今年から読み始めたお薦め作品

陽キャになった俺の青春至上主義 』

近年の学園ラブコメラノベにおいて必須要素となった陰キャ陽キャとかカーストを肯定的に捉えつつ物語を展開させているのが最大の特徴と呼べそうな作品
陰キャな自分から脱しようとする者も陽キャな自分に閉塞感を覚える者も同列に描いているからこそ誰も彼も嫌味に感じない
また、それらの鬱屈とした感情に寄り添うのが陰キャから陽キャになった橋汰である点も本作の面白さに一役買っている印象ですね

『あした、裸足でこい。』

こちらは第1巻発表が去年なのですが、存在を知ったのが今年だったので
いわゆる青春やり直しモノ。特徴としては任意のタイミングで未来に戻って自分のやり直しがどのような結果を生んだのか確認できる点が上げられるでしょうか?
最初の高校生活では理解してやれず失踪させてしまった二斗。彼女の失踪を回避する中で自分の青春を取り戻していく巡の挑戦模様が良いんですよね…

『この青春にはウラがある!』

人から尊敬の念を集めている人でも、輝く高校生活を送っている人でもその青春にはウラがある。そのような視点で構成された本作は飛び抜けた特徴こそ無いものの、自分の外的印象を守る為に主人公の夏彦を良い意味で利用する女性陣の様相には時折驚かされるものも有りつつ、これも一つの青春かと思わせたり
一方で主人公の夏彦にも、彼を見守るひよりにも別の意味のウラが有った点はこれからどう展開するのか期待させますよ

大いに楽しんだ作品

数を読めていないので一作だけ

ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編』9.5巻

ここ最近のよう実は特に恋愛方面の動きが顕著な為に特別試験等が行われない今巻の展開には色々と心躍らせてしまいましたよ
既に軽井沢は綾小路と付き合い始めてそれなりの期間が経っているから、多少の喧嘩等が有っても容易に関係を修復できる。いわば安定状態
だからこそ、そこに割って入ろうとする一之瀬と坂柳の謀略がどのようなものになるか楽しみで仕方ないんですよね
今巻は3学期に向けての前フリになっているからこそ、気軽に楽しめつつこれからの展開に一抹の恐れを抱ける巻と思えましたよ

総括

年々アニメの視聴数が減り、新しいマンガやライトノベルにも挑戦出来なくなっている中でマンガとライトノベルに関して3作品ずつお薦めを上げられたのは自分の中ではどうにか「よくやった」と言いたくなる状況なのですが、他の人から見たらこの状況はどう見えるんですかね?
欲張るならアニメに関してもっと視聴数を増やしてお薦めだなんだと言える程度に成るのが良いのかもしれませんが、既に自分のキャパシティが限界近い状況だとそこも難しいんですよね……

来季のアニメに関しては新作4本、継続2本、再放送1本が今のところの予定なのですが、それもどうなる事やら……

2023年は色々どうなるか予想も付かなかったことも有り、特にこれと言って目標も立てなかったのですが、マンガの読了数が減った代わりにライトノベルの読了数が増えたのは個人的には喜ばしい点だったり

次なる2024年の簡易目標としてはもう少し映画鑑賞数を増やしてみたいなと思っていますね。前々から映画鑑賞を趣味とまで言えなくてもそこそこに見ている状態に持っていきたいという野望というか欲みたいなものが有りまして。2024年はその点を少し意識して1年を過ごしてみたいかと思います。

 

2023年7月に開設したばかりで未熟ばかりのブログですが、このようなブログを見て下さって本当に有難うございます。2024年も宜しくお願いします。

あした、裸足でこい。4 感想

二斗の為に何が出来るか?これまであやふやだったその道は確固たるものへと変わった。ようやく巡の青春やり直しが本格的に動き出したという印象を覚えるよ
でも、そもそも小惑星を見つけるなんて高校生には難しい話で。道が判ったからといって、それはショートカット的なものになるわけじゃない
泥臭くやらなければ高校生の巡に小惑星は見つけられない。でも時間を掛ければ二斗のやり直しが時間切れを迎えるかもしれない

その意味では驚きの情報を与えてくれるのが二斗の回想だね
巡が経験した高校生活は無味乾燥としたものだった。でも二斗が知る巡は高校一年生の段階で毎回小惑星を見つけていた
今の巡とはあまりに異なる輝かしい姿。それは二斗との関わりがどれだけ彼の人生を狂わせてしまったのかという絶望を思い知らせるし、同時に巡が本来の道に戻る事が出来れば小惑星を見つけられる可能性への希望を与えてくれる

反面、そんな巡の活力を分けて貰おうとした二斗の渇望も見えてくるね
何度も繰り返されるやり直しの果てに魂を疲弊させていた彼女にとって、どのやり直しでも功績を残す彼の姿は道標のようなものだったんじゃなかろうか?
何度やり直しても栄光の未来なんて無いのかも知れない。でも巡は何度やり直しても栄光の未来を掴む。なら彼の傍に居れば自分も栄光へ到れるのかもしれない
二斗に芽生えてしまった甘えのような心だったのかもなぁ……
だからこそ、関わった事で彼の栄光が消し飛んでしまった未来にこれまでに無い絶望を味わったのだろうけど

逆に言えば、巡がボロボロになった人生の先に有るやり直しの中で小惑星を見つけられれば二斗が関わっても変わらずに栄光を掴める者が存在する証明となり、それは同時に二斗自身も栄光を掴める可能性へと直結するのか
巡が見つけた二斗の失踪を回避する方法は想像以上に重い意味を持ちそうだ


重大な覚悟を持って小惑星を見つけようとする巡がそうした姿勢を示せば示すほど、彼の挑戦に寄り添う真琴の想いも際立ってくるね

これまでも思わせぶりな発言から、そうではないかと予想されてきた真琴の好意。それは真琴が巡とつるむだけなら問題とならなかった。でも巡が二斗の為に行動する際もつるもうとするなら更なる深掘りが必要となる
巡が天文研究会へ向かう奮闘に付き合い、彼の為に憤る。それだけで彼女の想いは明らかというレベルだったのだけど、自分の行動原理として表明できる程とはね
しかも、こちらの真琴はやり直しの時間軸における真琴だから巡との交流もまだ多くはない。それでも彼を好きになったという事実は彼女が懐く愛情の深さを物語っているよ


とは言え、やはり物語の主題は巡と二斗の挑戦
二斗は幾度のやり直しでも掴めなかった音楽体験の満足と関わる人の幸福を
巡は二斗の失踪を回避しつつ諦めてしまっていた夢の実現を
巡が小惑星を見つける意志を明らかにし、その挑戦を始めた点は二斗にも強い影響を与えたようで。そりゃ自分のやり直しのせいで彼が夢を諦めた姿を見たなら、自分がやり直しても夢を諦めない、夢を掴める彼の姿を見たいと思うもの

その期待感は巡にも影響を与え返してくれるものになるね
今回の研究会で想像していたような成果は何も手に出来なかった。でも二斗が一度の高校生活で諦めなかったように、巡も一度の研究会で諦める気持ちにならなかった
それは間接的な二斗の肯定であり、同時に夢は諦めなければいつか叶うと教えてくれるようなもの

そうして好き合う2人で諦めない姿勢を手に出来たから二斗は巡が辿り着いた未来で待つ事が出来たのだろうね
それなのに…

二斗はそもそも交流が少なかったから彼女が何かを諦める未来を知らなかった。巡は二斗の問題を解決できれば満足な未来に辿り着けると信じていた
でも、二人の影には何度挑戦しても願いを叶えられないと諦めざるを得なかった少女が居たわけだ
想いを口にしても、一緒に夢へと挑戦しても、抱き着いても真琴は巡の隣に立つ事は出来ない。何故ならその場所には既に二斗が居るから

今のままではどうやっても訪れない真琴の未来。その為に巡が出来るやり直しなんて果たしてあるのだろうか?