タカツテムの徒然雑記

主にアニメや漫画・ライトノベルの感想を投稿するブログとなっています。

虚構推理 忍法虚構推理 感想

九郎の過去に纏わる幾つかのエピソードを収録した巻。といっても人魚やくだんを食べた頃ではなく、中学・高校時代
『廃墟に出会う』と『まるで昔話のような』は既に漫画版で感想を書いているので簡潔に

『廃墟に出会う』は漫画版が第三者視点のような形を交えて描かれる為にあくまでも九郎と夏彦が廃墟で語り合うエピソードという体裁だった。けれど、小説であり夏彦視点として本エピソードでは書かれているから、夏彦の心情が表現されるだけに留まらず、夏彦の隠し事を言い当ててくる九郎の得体の知れなさが漫画版よりも強調されているように思えたよ
反面、「黒の看護師」というワードを誤魔化す際にはかなり無理のある推測に拘泥しているように見えるのだからギャップがある。怪異の存在を隠そうとする姿勢は琴子に通じるものがあるけれど、彼女とは手練手管が全く異なる点が見えるね。結局、夏彦は怪異の存在を否定できる程の考えは抱かずに終わったのだから

『まるで昔話のような』は九郎にかつて想いを寄せていた真里奈が登場するエピソード
エピソードの大半が九郎と真里奈が相棒関係のように行動するものだから「もしかして…」な展開を期待してしまうけど、九郎の隣には既に琴子が居るし普通の人間に過ぎない真里奈に妖怪より恐ろしい九郎の相手が務まる筈もない。というか、人間と妖怪の異種恋愛譚が破滅に終わった仕儀が眼の前で展開されたのだから、真里奈にだけ良い未来が残されていると思える筈もなく
てか、漫画版ではかなりのインパクトを以て描かれた「大きいよ」が割とあっさり流されていた事にちょい衝撃を受けたり……


注目は今巻が新録と成る『忍法虚構推理』か。初めてこのタイトルを見た時は何事かと思ったよ……
おまけに話の始まりはいきなり江戸時代がどうのと書かれているのだから尚の事に吃驚してしまう

Web上に掲載された作品の主人公に九郎を思わせる要素がある。危険性が有るのか無いのかは曖昧。けれど他人が知る筈のない九郎の体質を知っている者が書いているかも知れず、そして書いたからには何かしらの目的が有るかも知れず
本エピソードの立ち上がりはひたすらに霧の中を進むかのようなもの。何かしらの思惑が有るかも知れないとは思えても、それが何に繋がるか全く読めない。というか、江戸時代の料理に賢者の石が使われているなんてトンデモ展開もどうなるのか読めないもの
作中で起きる事件のモチーフとなったらしき実際の事件が議論の俎上に上がる事でようやく『真九郎忍法料理帖』が何を指し示したいのかが見えてくるものの、じゃあどうしてWeb小説の形で事件の真相へ迫るかのような表現をしているかが判らないし、九郎をモデルに使用している理由も見えないまま

ミステリ作品には時折、中盤に至るまで何が起きているかも何が起きようとしているかも全く予想できない作品が有ったりするけれど、本エピソードもその類だね
それだけに九郎があのトンデモ作品の著者を知っていて、更には伝言まで頼まれているなんてね。事は裏側が明かされ、ようやく大きく進展を始めていく

あのようなトンデモ作品が書き記された裏事情を知ると、どうしても脳裏に浮かんでくるのは『鋼人七瀬』だろうね
あの作品も実在した人物・七瀬に別の物語を貼り付ける事で鋼人という怪異へと育て上げていた。それは鋼人が存在して欲しいという願望が集積した事に拠って成立していた
『真九郎忍法料理帖』を利用する事に拠って現実に影響を齎そうとしていた桃子は『鋼人七瀬』と似た事をしようとしていたわけだ。そうなってくると、ここに琴子が現実に影響させる側として桃子に協力するというのは構図として面白いね
まあ、今回は効果範囲が限定的だし、それによって調和という秩序を保とうとしていた訳だから協力できたのだろうけど

ただし、こうなってくると読めなくなるのは物語が辿るべき展開。『鋼人七瀬』では鋼人を暴走させる事が目的だったから、ひたすらに秩序を乱す要素を鋼人に盛り込んでいけば良かった。けれど、特定の人物だけに対し報いを感じさせる物語となると先の展開が読めなかったよ
その点は琴子の帳尻合わせの仕方が巧かったね。というか、より正確に言うと城平先生の二重三重に物語を構築する執筆力が凄まじかったというべきか

妖怪を用いた力技はあったものの、事件も桃子の依頼も無事に解決。これまでの中編に比べるとシリアス度もテーマ性も薄かったな…と油断していた処に琴子はとんでもない爆弾を投げつけてきたね!後から思えば本エピソードはあのエピローグの為に存在した前フリのような物語だったと言えるのか!
琴子と九郎、そして六花の物語は『鋼人七瀬』によって幕が切られた。ならば、場面転換と言える物語も『鋼人七瀬』と似た要素を持つ物語と成る事になんらおかしな話はない
だとしても、人々が物語を信じる力を利用するようにして九郎達を普通の人間に戻す策を見出すなんて思いもしなかったよ……

琴子が語った解決策はあらゆる問題点をクリアできているように思える。忌避したくなる要素は持つものの、食べる事に拠って始まってしまった秩序に反する状態なら食べる事に拠って秩序へと舞い戻ろうとするのはなんら奇妙な発想ではない
けれど、琴子の策に一つの瑕疵を見出すならば、それこそ九郎の台詞に集約されるのだろうな…。琴子自身は現状にも解決策にも不満を全く持っていない。しかし不満を全く持たない点にこそ悪夢は潜んでいるかも知れず…

現時点では琴子の策を越える発想は何処にも無いように思えるし、中途半端に琴子だけを救おうとすれば九郎も六花も救われないし、次なる秩序の担い手に今度こそ二人は退治されてしまう可能性もある
光明が指したように思えて、その実は追い詰められたような心地にもなる。何とも言えない読後感を持つ終盤となりましたよ……

ホロー荘の殺人 感想

終戦の翌年に発表された作品である為か、戦争を経て激変せざるを得ない人間社会とそれによって歪さを醸す人間模様が描かれていたような印象を受ける
それでいて、本作の主題は愛と殺人なのだろうね


筋書きとしては不倫を疑われた男性がホロー荘に滞在しているらしき人間によって射殺されるというものだけど、その射殺されるまでのシーンがしっかりとページ数を掛けて描かれているが為にむしろ殺人はおまけで人間模様こそ本筋だと認識させるような作りとなっているね
そもそも舞台となったホロー荘に関係者が集まるまでの前段で家主の夫人・ルーシーが当初から危惧するように何かが起こりそうな者達が集まっていたと言えるのだから、序盤から殺人に繋がる素養が有った舞台と言える。それでもあの殺人事件が衝撃的なものとして扱われるのは、殺されたジョン・クリストウがあの家において家族のような存在であり、同時に殺人犯と目されたガーダ・クリストウがその妻であったからかもしれない

一方で夫を妻が殺した、なんて光景は世俗的な大衆紙で扱われるような詰まらない題材でも有って
それ故にポアロが現場に遭遇した際の「きわめてわざとらしい殺人場面」が事件の印象を複雑で正体不明なものとしていくね
当初、事件は滑稽な程に単純で作り物めいたものに思えた。だというのに探れば探る程に真相を求める者を惑わす作りとなっている

そのような印象を抱けるのもホロー荘に集う人間達がどこか世俗的でないと思えるからかもしれない
ミッジを別として、ホロー荘に滞在する者達はどこか前時代的。未だに貴族の時代が続いているのではないかと思えてしまう
けれど、ミッジという存在が示すように、そして作品が発表された時代背景が示すように、もはやホロー荘の在り方は世に反したもの。だからか、そこに集う者達の人間性はホロー荘で暮らさぬ者には異質なものと思えてしまい、その異質さが殺人事件の真相理解を邪魔してくる

特にルーシーの態度に代表されるように、ホロー荘の住人は敷地内で殺人が起きたというのに、それを現実のものとは考えないような態度ばかり。むしろ自分達に現実を突きつけようとする警察を邪険にする態度はもはや世俗に背を向けているかのよう

他方で彼らが何を大事にしていたかといえば、一族の繋がりであり互いを愛する心だったのかも知れない
ジョンはそもそも不倫の疑いを契機に殺されたわけだけど、そこには数多の愛情が絡まっている
ヘンリエッタエドワード、ミッジ、ヴェロニカ…。誰も彼も殺人を他所に思うが儘にならない感情に翻弄されていた
それはまるで世界を揺るがすような戦争が起きても人の生活は続くし、そこで人は愛を育んでいくと言わんばかりのものだったのかもしれない

それだけに終盤で波乱万丈の果てに一つのカップルが誕生した事はクリスティ作品らしいなと思いつつ、人間社会の確かさを感じさせる話だとも思えたよ

鳩のなかの猫 感想

冒頭こそとある女学校の入学模様を描きつつも、それに続くは中東のある国で起こった革命に拠る余波。また、革命を逃れた宝石の行方を公安やら殺人鬼が追うというのはスリリング有る展開
けれど、メドウバンク校で生じる事件の発展はじっくりと行われるね
王国で起きた革命はお偉いさんを走らせるものでは有るけれど、イギリスの女学校では遠い話。遠縁とされるシャイスタが入学してきたとしても扱いに困るような事はない。むしろ、ちょっとやそっとじゃ揺らがない軸を持っている学校だと判る
そんな女学校で教師が何人も殺される。しかもそのうち二人が殺された現場は室内競技場という殺人の動機を見出すのが難しい場所
読者には動機が何となく見えはする。けれど、何故現場に室内競技場が選ばれたのか?何故体育教師は殺されたのか?そして宝石はどこに隠されているのか?
錯綜する幾つもの謎が本作をワクワクとしたミステリにしてくれるね

ポアロの登場は終盤になってからであり、それまではスパイのアダムやケルシー警部が推理や捜査を担当するだけあって、真相究明は一向に進展しない
けれど、そうした遅々とした展開が逆にサスペンス風な本作の内容を活かしているね。アダムやケルシーの懸命に関わらず事件は起きるし犯人の尻尾すら掴めない。平穏に包まれていた筈の女学校が混沌と化していく様子には緊迫感が有る

そうした緊張を強いる要素すら有る展開だからこそ、とある少女が見せた勇気によってポアロが舞台に登場し、事態が打開されていく展開は爽快感が有りましたよ


事件とは別方面の要素だけれど、本作に登場するバルストロード校長は傑物だね
たった一代でメドウバンクを英国では名の知れた学校に育て上げた。また、校内で殺人事件が続く中でも全く取り乱さないどころか、事件が終わった後に学校を復調させる道筋まで思い描いている。また、作中で彼女が掲げる教育理念も素晴らしいもの

事件が終わった後に彼女がどうなったかは流石に本筋から外れるから描かれないけれど、彼女ならば、そして彼女が新たに得た共同経営者とならば、メドウバンクを再び偉大な学校に出来ると容易く想像できる程の人物に思えたよ

書斎の死体 感想

ミステリ小説なのだから、事件の導入は惹き込まれるものか?その作品で扱われるトリックは意外なものだったか?という点は評価に直結する部分なのだろうけど、それが小説である以上は見逃せない点はその作品が魅力的であるかという点で
そして作品が魅力的になるかどうかは物語の構成の巧みさだったり、人物が活き活きとしているかという点等が左右するかと思うのだけど、本作は後者がとても高いレベルで成立していると思えたよ

勿論事件の導入は素晴らしい点は言うまでも無い
朝、起きたら自宅の書斎に見知らぬ女の死体が転がっていた。初動捜査では死体の素性に全く見当がつかず、暫く経ってから家族でも何でもない男性の通報により素性が判明するという筋書きの時点で事件に惹き込まれる

でも、本作の場合は所狭しと活力の感じられる人物が登場する点も言及せずに居られないね
登場人物一覧に掲載されている人物達だけでなく、ワンシーンしか登場しないモブキャラクターですら人柄に関し細やかに表現され、それがどのような人物か一目で判るようになっている

少ししか登場しない人物すら様々に物事を考えているのだと感じられる。そして、それらの人物が口にするのは事件に対する憶測、つまりは噂話だね
本作はマープルが探偵役。彼女とて村のお婆さんとして噂話を好む人物では有るけれど、それだけに死体が発見された家を中心としてどのような噂話が飛び交うか予想できる。それによって生じる理不尽を回避しようと尽力する
また、噂や憶測が盛んに飛び交うものだから、容疑者達の何気ない憶測が意外なヒントになったりするのも面白い

マープルはいつもの手法として自分の人生経験で見聞きした人物達との関連を事件関係者に見る事で推理を進めていくのだけど、真相解明の決定打となったものには驚愕させられたよ
何気ないけれど、人をよく知っていれば違和感を覚えずに居られないポイント。他人から与えられた情報に惑わされずそれを用いて真相を言い当てたマープルの姿からは他人の憶測などは容易に信じてはいけないのだと再認識させられたよ

死者のあやまち 感想

オリヴァ夫人と言えば登場する度にポアロを煙に巻くような発言をしていつの間にか事件の渦中へと導いていく印象が有るのだけど、今回は何も起きていない状態から「腑に落ちないおかしな点がある」という理由だけでポアロを呼び出すのだからとんでもない話
けれど、結論として実際に殺人事件が起きて、ポアロにも容易に解けない難題へと変化していくのだから面白い

本作の事件は犯人探しゲームとして企画された謎解きで死体役と成った少女が本当に殺されていたタイプの事件
犯人探しゲームが本物の犯人探しへ、と言うと構図は判り易いように思えるが、現実的に考えてお祭りの最中に少女団のマーリンを殺そうなんて思う人間が居るのかと動機が全く見えてこない
むしろ事件と同時に姿をくらましたハティ夫人の消失こそ何らかの動機を見る事が可能で、そうなるとマーリンが死んだのもハティ夫人絡みという事になるが、ハティ夫人が何処へ行ったのか皆目検討が付かないという五里霧
探すべきは明確なのに、何処を探せば良いか全く判らない


本作が面白いのは微妙に要素をずらしてくる点だね
動機が見えない殺人は珍しいタイプではないけれど、同時に動機が見える失踪が絡む事で殺人と失踪という2つの事件の真相を同時に考えなければならない

また、読み終わってみればクリスティ作品では珍しくもない要素を絡み合わせた作品なのだと判るのだけど、読んでいる最中は要素が巧妙に隠されていたり、トリックの肝と言える要素の傍に別の目立つ要素が配置されている為に良い具合に騙される仕組みになっている印象。
それによりポアロの推理が披露されるシーンまで真相に気付くのが難しい構成だと感じられたよ

それでいて、真相を知った状態で幾つかのシーンを読み直すとこれが真相であると示唆する文章に出会えるのだから余計に面白い
名作とまでは呼称できなくても良作と言って差し支えない作品でしたよ

第三の女 感想

ミステリの導入はその後に始まる又は既に始まっている事件をどのように捉えるかを決定付ける重要なポイントだと思っているのだけど、本作ほど実態を掴めない導入は珍しいかもしれない

ポアロを頼ってやって来た依頼人、けれど彼女が口にしたのは「自分が犯したらしい殺人について相談したい」などとちょっと要領を得ないものだし、結局依頼をしないままに帰ってしまう
これ程までに「これから事件が始まるぞ!」と思えない導入はやはり珍しく思える
ただ、ポアロ依頼人が去り際に口にした「年をとりすぎていらっしゃるから」なんて言葉に触発されて動き出すのだから、別の意味で面白さがあるが


本作の特徴的な点は先に上げた導入部も有るだろうけど、殺人事件が一向に見つからないという点も上げられるね
依頼人になる筈だったノーマが殺人について言及したのに彼女の周囲にそれらしき殺人は無い
彼女の人間関係を探ってみても殺人が起きそうな気配は彼女以外から一切感じない
夢遊病のように歩き回るノーマが夢の中で人を殺し、それがいずれ現実に起きるのではないかと誤解してしまう程に殺人の気配は希薄

もう一つの特徴は殺人事件が見つからない為にポアロが手にする情報も方向性が生まれない事だね
何処に殺人が有るか判らない。だから探すべき情報も判らない。そうしてポアロや読者に提示される情報はバラバラ過ぎて推理の役に立つものが混じっているのかすら曖昧

物語が進展するのはやはり隠された殺人が見つかってから。でも、それだってその死が何を意味しているのか全く判然としない
それだけにポアロが「サード・ガール」の意味から事件の真相に気付き、更に事件が新たな展開を迎える流れは秀逸

ハロウィーン・パーティ 感想

話に派手さも深さも無いし、トリックも特異な点があるわけではないのだけど、それだけにクリスティらしさが詰まった作品と言えるのかな?


事件は愚かな少女が殺人現場を見たと吹聴した事から始まる。その構図は個人的に『葬儀を終えて』を思い出させるかな
自分の発言がどのような影響を生むか全く想像できていない愚か者の言葉が無用な殺人を呼び起こす。まあ、あちらはもう少し異なる構図ではあるけれど

本作の特徴を一つ挙げるならそれは被害者が幼い子供である点か
クリスティ作品によく見られる金銭も愛憎もあまり絡んでこない年代が被害者となれば、作中で盛んに言及されるように変質者や狂人による犯行を疑いたくなるもの
でも、そこに理性的な犯行動機があるならば、また被害者のジョイスが殺される直前に吹聴した殺人の話に意味があるならば

今回の事件をややこしくするのは、ジョイスの発言を信じる者が皆無な点だね。ジョイスの話を起点に事件の推理を進めるしか無いのに、彼女の話から事件の全容は見えてこず、従って彼女が目撃した筈の過去の事件も容易に見えてこない

ただ、ポアロはいつもの調子で事件関係者の話を聞き続ける事で推理を膨らませていくわけだ
そうして辿り着いた真相にやはり派手さはないのだけれど、子供が被害者として描かれたからこそ活きるラストであるようには思えたかな