心が満たされた者が本書を一読しても響くものがないだろうと、そう思える程に自分ではどうする事も出来ない恋心に翻弄され破滅していくウェルテルの心情に寄り添った作品となっている。それで居ながら最終的に彼が迎える破滅に感情移入してしまえるかは本書を評価する際に分かれ道となり得るような気がしたよ
実を言うと、私個人としては本書を読んでもあまり響くものが無かった人間で、心を乱していくウェルテルに寄り添えなかったタイプだったりする
それだけに終始冷静な視点で読み進めてしまい、そのまま読み終えてしまったのだけれど、収録されている解説を読む事で本書への理解度が跳ね上がった印象
本書はウェルテルが投函した手紙の内容を並べる形となっている。つまり本書を読む際には物語を見るように読むのではなく、ウェルテルから受け取った手紙を読むように、言ってしまえばウェルテルではなくヴィルヘルムに成りきって読み進めるのが正しい接し方なのだろうね
だから、ロッテへの恋心を膨らませ実る事のない行動を繰り返す彼を諌める立場として読者はウェルテルの行動を見詰める事になるのだけれど、その読み方もウェルテルの心と同調するように次第に破綻していくね
本書で描かれるウェルテルの心情があまりに真に迫っているものだから、ウェルテルの手紙を読んでいるつもりだった読者はいつの間にかウェルテル自身になったかのように悩むしかなくなる
読者が読むウェルテルの手紙はウェルテルが差し出したものではなく、己の感情を吐露したものと思えてくるわけだ
そう考えると、ウェルテルの手紙の中にはロッテとは無関係なシーンが挿入されている事にも納得がいくね
ロッテに想い焦がれていると言っても、他の何も手に付かなくなっているわけではない。時には己の人生を生きる如く好きな人と無関係な分野に精を出す事だって有る
けれど、本書の恐ろしい点はそうした生活感溢れるウェルテルの言動が次第に減衰していく点に有る
ロッテに魅了されても、アルベルトが彼女と結ばれると知っても、他の土地に移ってもウェルテルは彼らしさを残していた
だというのに、度重なる不遇やアルベルトの妻であるロッテの傍にいる事で彼は彼らしさを喪失していく。悩みは深くなり、視野が狭くなり、死へと誘われていく
その過程は本当に真に迫るものだからこそ、読者とて彼のように自死に惹かれてしまうのかもしれない
だからこそ、最終的にウェルテルが至った破滅は彼にとって不幸の形ではなく、解放や幸福を意味するかのように思われ、彼のような死に方をしたいとまで思わせるものになってしまっている
それはこの世のあらゆる劇物よりも恐ろしい薬だろうね…
本書を読み終わった後に関連する記事やらウェルテル効果やらについても調べてしまった
何百年も前に書かれた作品が今もこうして多くの者に消せない影響を残す。それは唯一無二と評しても過言ではないかもしれない