真琴が楽園を手放す第一歩へと踏み出してしまったけれど、前半部でその傾向は薄く、学生らしく夏を謳歌する様子が描かれていた為に読んでいるこちらもほっこりとした気持ちになってしまったよ
何というか凄いなって思う。男子1人、女子4人で水着を買いに行く話が展開されたのに、その近辺のシーンで最も印象に残ったのが女装した真琴ってこの作品のバランスはどうなっているんだろうね?
いやまあ、表紙にもなってるあのレベルの子が街中に居たら普通に二度見してしまう気がするな。てか、女装モノというわけでもないのに、女装した主人公が3度も表紙を飾る音楽作品って何だろうね?
本編ではプロのレコーディングを受けられた事で真琴の中で色々と刺激が有ったようで
あの音楽バカな真琴がプロの力を借りて思った通りの音を収録できるとなったら暴走してしまうのは当然の話
だけれど、スタジオの空気に身を浸す事でまるで空間に漂う音の粒と一体化したかのように「作るべき音楽」をその身に宿す姿には本当に驚かされたよ。これまでも彼の音楽センスには度々驚かされてきたけど、今回はひときわだった気がする。あの時の彼はまるでその時点では形すら成していない音の欠片がどう集まったらキョウコが望む形となるかが判っていたかのように思えたから
そりゃあれだけの才能を見せられたらキョウコが再びプロデュースしたいと言い出すのも当然の話で
キョウコが望んだのはPNOというバンド単位での話だけれど、明確に焦点として在るのは真琴という音楽で構成された人間で
それだけに夏合宿のシーンは真琴と彼以外の差を如実に感じる作りかのように思えてしまったな
凛子達は到着してすぐに海を満喫しに行った。対して真琴はスタジオに篭って音作りに邁進していた…
これは勿論真琴の音楽バカな一面が強く出たエピソードだけれど、他にも彼女らの水着を見て不健全な妄想をするでもなく彼女らの音楽性に想いを馳せるとか、そりゃ詩月が言うように「健全なのは不健全」なんて言われてしまうよ(笑)
だからか、詩月は不安を隠せなくなってしまったのだろうとも理解できるね
凛子も詩月も朱音も伽耶も音楽的才能に溢れている。けれどきっと真琴程ではない。その意味では真琴は彼女らとバンドを続ける事で本来なら発揮できる才能を発揮しきれていないなんて考えられるかも知れない。結局はそういう点もいずれ真琴がPNOを捨てざるを得ない未来へと繋がってしまうのかも知れない
でも、真琴は今すぐにでもPNOや彼女らから離れたいわけじゃない。涙を流す詩月に真琴が放った言葉はとても情けないけれど、今の真琴がなぜ彼女らとPNOを組むのかという必然性を象徴しているように思えたな
後半部の話はいずれ崩壊するPNOを間接的に象徴する話となったような
サンプル曲をアレンジする為に必要な音がどうしても足りない。ようやく見つけたそれは死者に繋がる無響の音。とても直感的な部分だからバンドメンバーも理解できない
他の人に相談しても構図は同じだね。真琴が死者の音に導かれている事は何となく判る。けれど、その音の正体も真琴がそれに惹かれる背景も理解しきってやる事は出来ない。判るのは音楽家である以上は己が納得できる音を鳴らさない限りは死ねないという事
まるで死者と話す為に己も死者になろうとするかのように蒔田シュンの音を辿る巡礼。そうして辿り着いた場所は無響であり虚無、死であり生である空間。あのシーンを読んでいると、きっと真琴はいつの日か死ぬ為に音楽を奏でていて、生きる為に音を積み重ねているのではないかと感じてしまった。それでも残したい音があるからバンドをやって、音に囚われたくないからバンドを抜けるつもりで
これらのシーンにおける情緒を何処まで感じ取れたかは正直判らない。けれど、今回の真琴はバンドの為にあの音を奏でたのであり、あの音に伽耶達は畏怖する部分はあったようだけれど、それによってPNOの音源は生まれ落ちたわけで
ぐるぐる考えていたらそれこそ無響の境地へと誘い出されてしまいそうな終盤の展開。それだけに実際に死の淵まで行ってしまった美沙緒が気軽な感じで「死にゃしないんだから」と言ってくれたのは本当に救われたかのように思えたな
真琴はいつの日かバンドを捨ててしまうかも知れない。詩月達から遠く離れた場所へ行ってしまうかも知れない。音楽に包まれたまま人間を辞めてしまうかも知れない
けれど、それで本当に死ぬわけじゃないし、何よりも終わりを目指して歩み始めたのではなく、始める為に歩みだした筈で
『楽園ノイズ1』というタイトルに籠められた願い。いつまでも音が響き続けるかのような終わりなき文字列に愛おしさまで感じてしまうような終幕でしたよ
